鳩山論文に関する新聞記事の限界 - 松本徹三

2009年09月08日 06:05

アゴラの筆者や読者にはマスメディアの内情に詳しい方が多く、またそれがアゴラに対する期待の一つでもあると思うので、既存メディアがタブー視して報じないことを掘り下げ、それを既存メディアに対する批判につなげていくことは、きわめて意義深いことだと私は思っています。


但し、私自身は、残念ながらメディアの内情にはそれ程詳しくない上に、一方で情報通信産業に携わる会社の現役の役員でありながら、一方でアゴラに実名で寄稿しているという立場上、どうしても遠慮がちな議論しか出来ないという弱みもあります。従って、この場での私の議論は、「読者(視聴者)の立場から見て、こんな状態のマスメディアに満足できるのか?」という視点だけに絞られてしまうことをご容赦下さい。

今回の鳩山論文に対する米国の識者などからの厳しい反応については、遅ればせながら9月4日の日本経済新聞の朝刊に関連記事が掲載されましたが、これを読むと、やはり紙数の限られた日刊紙の限界を感じます。これが電子新聞で、興味のある人はすぐにそこから色々なサイトにアクセスして、色々な人の色々な見解を読むことが出来れば、どんなに良いことかと思います。

この記事には、「英訳された論文の主な部分」ということで、9行5段の「抜粋」がつけられていますが、これだけを読むと、「一つの考え方を示した、特に何と言うこともない普通の内容」なので、これに米国人が予想以上に反発していると聞くと、「こんなものにさえ反発する米国人は、大人気ないというか、いつまでたっても自己中心で、多様な価値観を認めない連中なんだなァ」と思って、不愉快に思う人達も多いことでしょう。

しかし、同じ人達が、もし池田先生や北村さんが書かれていることを読まれれば、おそらくは、「成程、米国人が失望したり、懸念を募らせるのも理解できるなァ」と思うことでしょう。つまり、メディアのあり方一つで、鳩山さんに対する評価や米国人に対する一般的な評価が、こんなにも違ったものになってしまうのですから、怖いと言わざるを得ません。

おそらく、世の中の誇り高い「新聞人」は、単に事実だけを報道するのではなく、その背景や本質を見透し、それが将来もたらすであろうことを示唆するところまでやりたいでしょうが、現在の日刊紙の体制では、とてもそこまでは出来ないのは明らかです。

私が不思議なのは、そういった「新聞人」が、どうしてインターネットとの相互乗り入れをもっと真剣に考え、寝ても醒めてもその方策を模索していないのかということです。「新聞人」が自らの誇りを現在の環境化で実現しようとすれば、それしかないことはこんなにも明らかなのに、何故そういう試みが未だに行われていないのでしょうか?

池田先生が「記者クラブ」の実態について触れられた9月6日付の記事を読むにつけても、単一の取材源に群がる「日本の報道体制の後進性と非効率性」には目を覆うものがありますが、私が特に気になるのは、海外のニュースや論説に対する感度の低さです。記者クラブに屯して時間をつぶしている暇があるのなら、何故常時ウェブを精査し、興味を引く記事があれば電話で直接海外の情報源に取材したりしないのでしょうか?

私の専門である通信の関係では、大新聞で大きく報じられる記事の殆どは、総務省による「大本営発表」です。ところが、「大本営発表」の悲しさで、その多くは、日本でしか通用しない評価に基づいており、グローバルレベルでの位置づけが明らかにされているケースは稀です。海外には、世界の潮流の本質を突いた面白いニュースがたくさん転がっているのに、そういうものに対する取材意欲は殆ど感じられません。

日本人の一部には、「何故そんなにまで海外での評価に気を使わなければならないのか?」「何故何でもかんでも海外と比較しなければならないのか?」「日本には日本のやり方と価値観がある。何故それに誇りをもてないのか?」等と言って、殊更に海外からのニュースや論説に不快感や苛立ちを示す人達が、少なからずいるように思います。しかし、これは極めてローカルな現象(誤解をされると嫌なので「田舎者」という言葉は私は使いません)であり、他の国ではあまり例のない現象です。

海外の評価に気を使わなければならない理由は明白です。それは、日本は「グローバル経済」の中でしか生きられないし、「グローバル経済」は諸外国(勿論、米国だけではありません)の政治と世論の影響を強く受けるからです。

どんなことであれ、「海外と比較すること」は極めて有益です。比較するものがなければ、人は独善に陥りますし、海外でより良いものやより良い考えが見つかれば、それを参考にして自らが進化できるからです。比較検証もしないで何かを誇りにしていれば、「誤った誇りにとらわれていたばかりに、進歩を遠ざけてしまった」という危険を生じます。

「『ネット』と『海外』を意識しない新聞人は、まともな新聞人とは言えない」ということが常識となる日が一日も早く早く来ることを、一人の日刊紙の読者として強く望んでいる次第です。

松本徹三

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