小泉さんは、草葉の陰で何を思う? - 松本徹三

2009年10月28日 22:27

池田先生の「郵政国営化の示唆する次の危機」を読み、今の日本が向っている方向の「真の恐ろしさ」に、慄然とするものを感じました。

世界に類を見ない一大借金国家を作ってきた前政権の後を引き継いだ民主党は、経済成長戦略を持たないままに、つまり、税収を上げる見込みのないままに、一大福祉国家を実現することを国民に約束してしまいました。そして、その当然の結果として、更に大幅な国債の積増しが必須となっているわけですが、それを当面スムーズに行う為の唯一の現実路線が、小沢―亀井ラインの推進する「国有化された郵貯を通しての、地方のお年寄りの個人貯蓄の国債への付替」であるとすれば、それはそれで「成程」と思わざるを得ません。


「みんなの党」の山内さんは、「またがっかり、郵政人事」と題するBLOGOS掲載のブログで、今回日本郵政の副社長に就任した財務省出身の坂氏が、渡辺行革担当大臣の路線に対する最強の抵抗勢力だったことを明かし、民主党の「脱官僚主導」はもはや看板倒れで、「財務省の覇権(復権?)」が進みつつあると嘆いておられます。

しかし、「どん詰まりの国家財政の中で、現実と矛盾したマニフェストを実現するためには、これしかないのだ」と言われれば、「脱官僚」とか「官から民へ」といったスローガンへの背信などは、むしろ「比較的小さい問題」として、受容せざるを得ないのかもしれません。とにかく、国民は、先の選挙で、民主党の標榜した「社会主義路線」を、ある程度容認してしまったのですから…。

最近は、無精者の私も、BLOGOSのおかげで色々な人のブログを読む機会が増えましたが、門司港の郵便局に勤務しておられる方のものと思われるmojiko.com「ココログ別館」の「あえて考えてみた、郵貯で国際を買うことを肯定する理論」は、お奨めです。この記事は、ブログ特有の「少しふざけた、投げ遣り調」の文章で書かれてはいるものの、妙に説得力があるのです。ここに描かれているのは、「酷いことが行われようとしているが、実際にそれで傷つく人はあまりいないから、それでよいのだ」という「不思議な地獄絵」です。

日本以外の国の人たちから見ると、もともと日本は不思議な国なのですが、その根幹は、以前からの自民党の最大の支持基盤であった「地方に住む年配者」の「保守主義」なのではないかと思います。この人達を取り込んだ自民党は、人口比で各国に比べ異常に多い土建業者(特に地方の土建業者)を通じて選挙資金を稼ぎ、或いはまた、地方に密着した「郵政票」や「NTT票」のような組織票を抑えて、都市部の浮動票に対抗してきたのです。

「収入はないが、膨大な貯蓄(これは「世界七不思議の一つ」とも言われています)を持っている」地方の年配者(お金持)は、昨今流行の「貧困率」を計算する時には、皮肉にも平均値を「貧困」の方向へと押し下げている一大要因を構成しているわけですが、ちょっとやそっとのことでは、この貯蓄を「消費」や「一般の投資」には向けてくれそうにはありません。

国にすれば、これらの貯蓄は、じっと待っていれば「相続税」として国庫に還流できるわけですから、あまり焦る必要もないと考えてきたのかもしれませんが、ここまで国の借金が大きくなってくると、もはやそう言ってもおられず、「これをちょっと前借しましょう(貯蓄している人達は、消費や投資には臆病でも、国なら信用してもらえそうですから)」ということなのでしょう。

さて、小泉さんです。

まだまだお元気なのに、「草葉の陰」などという形容詞をつけてしまっては、「怪しからん」と怒られるかもしれませんが、彼が並々ならぬ信念と情熱をもって取り組んだ「郵政民営化」が、かくも無残な「全面敗北」を喫しようとしている今、つまり、完全に「野垂れ死に」しようとしている今となっては、このような厳しい言葉を使わざるを得ないことも、ご理解が得られるでしょう。

小泉さんは確固とした自分の哲学を持った人ですから、「政治の世界では、自分はやるだけのことはやった」と考えておられて、「これからは、これまで我慢してきたことを自由にやらしてもらって、一人の人間としてかけがえのない人生を全うしたい」と考えておられるのかもしれません。それならそれで、理解も出来るし、敬意の対象にもなります。

しかし、自分があれだけの情熱をもって挑み、一時は「勝った」と思っていた大勝負が、結局は思いもしなかったような大逆転を許し、「一敗地にまみれる」という結果となったことについては、今、小泉さんは、正直なところ、どのように考えておらえるのでしょうか?

「諸悪の根源は小泉―竹中改革」、「小泉―竹中改革が日本をここまで悪くした」と、あらゆるところでクソミソに言われても、今や弁護してくれる人もあまりいません。「自民党をぶっ潰す」という公約は、はからずも果たせたものの、それに代わるものが、勝ち誇った「小沢―亀井体制」では、いくら何でも「不本意」もいいところでしょう。

私は、以前のブログで、「自民党を今日の凋落に導いた最大の責任者は、国民の支持を得ていた『小泉―竹中の改革路線』を徹底的に継続しなかった安倍元首相だ」と断じましたが、今となっては、「もっと大きな責任者は、小泉さんその人なのではなかったか」と思うようになっています。この点、小泉さんご自身はどうなのでしょうか?

聞くところによると、マスコミは、「劇場政治」を演出した小泉さんのショウマンとしての類稀な才能に着目して、「TV番組の常連」として引っ張り出そうとしているようであり、「孝太郎さんとの関係もあって、本人も満更ではない節がある」という話が伝わってきていますが、私は、安易にTV局の商業主義に乗ることだけは、何としてもやめてほしいと思っています。TVに出られること自体には、むしろ大賛成なのですが、その「演出のされ方」に大きな危惧があるからです。

日本が、今や、近代国家としてあまり例のない「一大悲劇」へと突き進みかねない状況にあるのに、この事態に相当の責任を持つ小泉さんが、薄っぺらなTV番組で、お笑い系の司会者に促されて、面白おかしく何かを喋る姿を見ることなどは、当時本気で彼の路線を応援した「国を憂う真面目な人達」にとっては、耐え難いことだと思います。もしTVで何かを喋るなら、あくまで「敗軍の将」として、沈痛な面持ちで喋ってほしいのです。

同じように、米国のブッシュ元大統領を招いて、日本シリーズの始球式に出てもらい、そこで小泉元首相との旧交をあらためるというような演出も企画されているようですが、これも是非やめてほしいものです。ブッシュ氏を招くこと自体は、もう決まっているのなら止むを得ませんが、そこに小泉さんが絡むのは、あまりにも味がよくありません。

(私は、小泉政権当時から、日米同盟路線を徹底する方針には賛同していたものの、「石油利権追求」丸見えのチェイニー氏や、「軍需利権追求」丸見えのラムズフェルド氏と組んで、「史上最も愚劣なイラク侵攻作戦」を遂行したブッシュ氏との、小泉さんの「ベタベタの関係」には、相当な危惧を持っていました。果たして、ブッシュ路線は日本ではずっと以前から不人気でしたが、現在のように至る所で「反小泉」が勢いを持っている状況下では、「ブッシュ氏との蜜月時代」を敢えてノスタルジックに演出することなどは、百害あって一利ない「愚劣な企画」だと思います。)

ネットには「小泉強運スレ」というものがあります。ここでは、小泉さんがやったことの適否を論ずることは一切せずに、唯ひたすらに「彼が如何に強運であったか」を、面白おかしく検証しようとしています。これを見ると、彼がやってきたことと、それが世論とどんな形で絡み合ってきたかが、年表のような形で整理されており、なかなか興味深いのです。(小泉さんの功罪の分析にご興味のある方には、一度このサイトを覗いて見られることをお奨めします。)

さて、これから、小泉さんは、その「もって生まれた強運?」を生かして、国民の為に「何かよいこと」をしてくれるのでしょうか? それとも、彼は彼自身の哲学によって、あくまでも飄々とこれからの人生を過ごされるのでしょうか? それは彼自身が決めることですが、かつて彼の路線を熱心に支持した国民の一人としては、やはり気になることの一つではあります。

松本徹三

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