後悔を最小化する人生 - 池田信夫

2009年11月09日 21:57

広島県知事に、湯崎英彦氏(44)が当選しました。一般には知名度はないが、私は彼から贈られた新著『巨大通信ベンチャーの軌跡』ASCII.jpのコラムで紹介したばかりでした。通産官僚からアッカ・ネットワークスというDSL(デジタル加入者線)企業の経営者に転身し、さらにWiMAXという高速無線の会社を起こし、総務省の「出来レース」の審査に阻まれたが、見事に逆転したわけです。


彼の本を読むと考えさせられるのは、日本でエリートが起業することがいかにむずかしいかということです。最大の問題は資金でも技術でもなく、70歳以上まで高給の保障される絶対安全な人生を捨てる機会費用が非常に大きいことです。私は彼ほどのエリートではなかったが、39歳でNHKをやめるとき、新聞で「39歳で大企業をやめると生涯賃金で5800万円減収になる」という記事を読みました。相談したのは中沢新一氏だけでしたが、彼は賛成してくれました。上司に通告したら、1時間以上にわたって思いとどまるよう説得されました。

それでも私の意志が変わらなかったのは、90年代前半のバブル崩壊を取材して「日本経済はこのままでは大変なことになる」と感じたからです。日本経済に何が起こっているのか、大学院に入り直して経済学をもう一度、勉強してみようというのが私の唯一の動機で、就職の見通しもなかった。その点では、湯崎氏よりもハイリスクの転職でした。おそらく生涯賃金で5000万円以上は損したでしょう。

それでも、会社を辞めたことを後悔したことはありません。もう会社にいた時間より辞めたあとの時間のほうが長いためか、会社にいたころの記憶はほとんどなく、その後のほうがずっとよく覚えている。それは毎日すべてを自分で決めてきたからでしょう。湯崎氏も「役所を辞めたのは不合理な決断だったが、後悔したことはない」と著書に書いています。

行動ファイナンスに後悔回避理論というのがあります。これは失敗を恐れてリスクを取らないことをいうのですが、アマゾンの創業者ジェフ・ベゾスも人生の決断に際して「後悔を最小化することを原則にしている」と語っています。

I developed a theory I call, regret minimization. I asked myself, “When I’m 80 years old and look back on this, will I regret having given up an almost certain multimillion-dollar bonus to go out and start my own company?”

80歳になったとき「あのとき起業しておけばよかった」と後悔しないように人生を選ぶというのは、行動ファイナンス理論と合わないようにみえますが、これは短期的な決定か長期的な決定かの違いでしょう。目先の判断では人々は失敗を恐れるが、そういうリスク回避的な人生を続けていると、年をとってから後悔することになる。マーク・トゥウェインもこう言っています:「20年たてば、したことよりもしなかったことを嘆くようになる」

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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