学歴インフレへの処方箋 井上晃宏

井上 晃宏

「学歴社会 新しい文明病」(R.P.ドーア)

 いささか古い本だが、著者はまだ健在だ。
 ドーアは「学歴インフレ」という病が世界中で蔓延していると書く。
 最初は初等学校卒だけで十分に威信の高い職業に就けたのに、教育が整備されるにしたがって、初等学校卒だけでは差別化できなくなる。このため、社会上層部への移動を目指す人々は、中等学校に進学するようになる。同じことが、高等学校、大学でも繰り返される。
 学校定員を増やさないことは政治的に困難であるが、財政的な制約がある。また、野放図に高等教育を整備すれば、教育の効率低下を招く。農夫に細菌学はいらない。何らかの方法で、「高等教育が必要な人」を選抜しなくてはならない。
 学力試験、知能テスト、くじ引きなど、さまざまな方法を比較検討した上で、ドーアは、どれも一長一短があるという。
 ドーアの提案する選抜方法は、「職場における選抜」だ。義務教育終了時点で、全員をいったん就職させ、勤務成績の良好な者を、その仕事に直結する高等教育機関に送り込むべきだという。これなら、教育目的が明確になるし、卒業後の就職問題が発生しない。
 「職場における勤務成績」とは何を意味するのか、どうやって就職場所を割り振るのかという問題はあるが、Ph.Dが就職できなくて、教育費用が無駄になる、いわゆる「高学歴ワーキングプア」が発生している昨今では、検討する価値があると思う。

コメント

  1. あんとん より:

    この本、近所の図書館にあったので予約しました。読むのが楽しみです。

  2. 海馬1/2 より:

    高等教育機関が(というか社会が)新卒優先をやめればよい。
    復学・編入にもっと寛容になれば、面接で「服装」により失格とされたヤンキーも社会経験をしてから、入学できる。

  3. 海馬1/2 より:

     てーいうか、
     学生(学者・研究者)と労働者(社会人)を別物として考えるのがおかしい。 試験選抜で抽出された自分は「選民」だという意識ですか?
     農夫に細菌学は「必要」です。
    働いたら学ぶことが出来ないってのはおかしい。

  4. a_inoue より:

    「農夫に細菌学がいらない」ってのは、ロンドン大学名誉教授ドーア氏がそう書いているんです。私が言っているんじゃありません。ドーアは、同様に「タクシー運転手をするのに、どうして学歴が必要あるのか」とも書いています。
     基本的には、私も同意見です。教育を与えることが無条件に善であるというドグマは、疑ってかからないといけない。

  5. a_inoue より:

    教育学部6年制の記事から。
    >もう一つ、関係者の間で語られている理由がある。大学院修了という肩書が、保護者や子どもへの「箔(はく)づけ」になるという考えだ。中央教育審議会の委員の一人は「昔の親は『大学出』の先生に一目置いていた。それがここまで高学歴の社会になると、『世間を知らない』などと軽んじる親も出てくる」。民主党の国会議員も「先生が先生というだけでは尊敬されない時代になった。うつになる人も多い。修士をとってもらってきちんと育てる必要がある」と力説する。

     ここにも「学歴インフレ」が見られるのです。
     本人が費用を工面して教育を受けるのならともかく、学校教育には政府補助が非常に多く入っています。必ずしも社会のためにならないことを、政府支出を使ってやらせるなんて、許されないでしょう。

  6. 海馬1/2 より:

     ならば、市民の為に(啓蒙)公立図書館は要らない、
    漫画喫茶が民営でいくらでもある時勢なのだから。

     フェルマーの最終定理もリーマン予想も広く大衆に啓蒙しなくてもよいことになり、仮に、ミツバチの激減も養蜂家が廃業すれば良いという結論を昆虫学者が結論したら、それでよいのか?

  7. 海馬1/2 より:

     建築偽装のとき、建築現場のガデン労働者は明らかにオカシイことにその経験知識でわかっていたことをお忘れですか?

  8. 海馬1/2 より:

     最悪想定
     テロもしくは、自然発生で稲に致命的な病気が発生した場合。
    農夫は無知でいてよいのか?w
     ご存知かどうかしらないが、稲の受粉期間が極めて短くこの受粉期を逃す(阻害)されると米は実らない。伝染・感染力によっては見逃せば東アジア全域で飢餓が起こる。

     

  9. sakagami1220 より:

    大学の新卒という肩書がなければ、まともな仕事にありつけないのが、そもそもの間違いだと思います。それが為に大学に進学する気のない人も、大卒という肩書をわざわざ4年の歳月と膨大な費用をかけて取る羽目になります。
    世の中のほとんどの仕事は、ある特定の技術や知識のいる仕事を除き、高卒どころか中卒でも出来る仕事かもしれません。
    僕は何も、大学で得られる高い知識や教養を否定する気はありません。また大学生活の4年間で得られる貴重な経験もたくさんあると思います。ただ現状で行われてる新卒の大卒でなければ、まともな仕事に採用されないが為の、理不尽で無駄な高学歴社会は僕も反対です。

  10. aoi700aoi より:

    学ぶための入り口を狭くする方向は反対です。

    学歴を得るためのコストがかかりすぎることが問題だと思います。だからムダになった時の損失感が大きい。
    せっかくインターネットがあるんですから、もっと大学も開放したらどうでしょう。実習は難しいかもしれませんが、講義とか格安で動画配信して欲しいです。
    わざわざ学校に籍をおかなくても、自分のペースで学び、あるレベルに達したら試験を受ける。合格したら大卒程度って感じで。

  11. 海馬1/2 より:

    >世の中のほとんどの仕事は、ある特定の技術や知識のいる仕事を除き、高卒どころか中卒でも出来る仕事かもしれません。

    というより、職業=生き方は身体言語なのでこの時期からはじめる
    覚えるべきなのは、スポーツ選手や伝統工芸の匠で実証されているじゃないですか?逆にホワイトカラーや教員・学者は30過ぎてまで勉強してても、ひきこもってっても出来るということですw

  12. isseishimiz より:

    >>海馬1/2さん

    職業=生き方、となるのは、一種の理想状態であって、ふつうはなかなか成り立たないと思います。
    職業=生き方という考え方からは、人を尊敬する態度が出てくることもありますが、差別する態度も出てくると思います。「卑しい職業についている人は、人としても卑しい」とか。

    身体言語について(わたしはよくわからないのですが)、