生物は環境を改造して生き延びる - 『強い者は生き残れない』

2009年12月06日 00:00

★★★☆☆ (評者)池田信夫

新潮選書強い者は生き残れない環境から考える新しい進化論新潮選書強い者は生き残れない環境から考える新しい進化論
著者:吉村 仁
販売元:新潮社
発売日:2009-11-25
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進化論というと、一般にはドーキンスの『利己的な遺伝子』ぐらいまでしか知られていないだろうが、最近の進化論はゲーム理論などを使って複雑になり、経済学でも進化論を取り入れている。たとえば母親が自分を犠牲にして子供を守るような利他的な行動は、ドーキンスの紹介した血縁選択理論では遺伝子プールを最大化する利己的な行動とされるが、それでは説明できない現象も多い。

最近では、個体レベルだけではなく、個体群のレベルで淘汰が起こるという集団レベル選択という理論が有力になっている。集団と集団の競争では、エゴイストによる内部抗争の多い個体群は敗れ、利他的な個体の多い個体群が生き残るので、利他的な行動は集団を守ることによって遺伝子プールを守っているのである。

このような複雑な進化の過程では、生き残るのは「強い者」とは限らない。特に環境が激しく変化するときは、恐竜のように特定の環境に適応した強者は、環境変化に弱いことが多い。むしろどんな環境のもとでもほどほどに強い個体が生き残る。つまり個体とその所属する集団や環境などの総合的な要因が進化を決めるので、環境変化からいかに独立するかが重要になる。

さらに環境を改変することによって生き残る戦略もある。多細胞生物が細胞内共生によって生まれたのも、細胞が生き残りやすい環境を作り出す進化だし、社会性昆虫が巣をつくるのも自分に合わせた環境の改変だ。さらに農業と定住に始まる人類の歴史は、進化の歴史上もっとも大規模な環境の改変であり、資源を囲い込んで固定するシステムが所有権として制度化された。

本書はこうした進化論の最新の成果を紹介しているが、生物学の話を安易に政治や経済に持ち込む床屋談義はいただけない。最後の章の「ファンド資本主義」(?)を集団レベル選択で説明する議論は、動物の本能的な行動と複雑な経済システムを混同している。同じことは、著者が「ゲーム理論の瑕疵」を批判する部分にもいえる。人間の利他的行動は、進化ゲーム理論ではなく、繰り返しゲーム理論のフォーク定理で説明できる。瑕疵があるのは、著者のゲーム理論についての理解である。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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