長妻昭氏はなぜ間違えるのか - 池田信夫

2009年12月08日 10:52

長妻厚労相が製造業派遣を原則禁止する法案を通常国会に提出すると表明しました。ひところ菅直人氏が社民党と一緒に騒いでいましたが、臨時国会では出てこなかったので、民主党も理性を取り戻したのかなと思っていたら、考えは変わっていないようです。多くの専門家が「規制強化は雇用情勢を悪化させる」と警告しているのに、長妻氏がこういう方針を出すのはなぜでしょうか。他人が何を間違えているのかを理解するのはむずかしいが、その原因を考えてみます。


TKY200912070344こういう規制によって何が起こるかは明らかです。朝日新聞のアンケートによれば、対象となった100社のうち、派遣が禁止された場合に「正社員を雇う」と答えた企業は14社で、大部分の企業は契約社員や請負に切り替えると回答しました。長妻氏がこういう事実を無視している原因として、次の3つが考えられます:

1.規制によって非正社員が正社員になると本気で思っている
2.社民党や連合との関係で政治的に発言している
3.厚労省の官僚がミスリードしている

「製造業での派遣もなくしていこうということで、正規職員に転換していく法案を準備している」という長妻氏の発言からみると、1のようにも思えます。そういうことが起こるためには、正社員以外の雇用形態をすべて禁止するしかない。しかし彼はそういう規制をするとは言っていないので、逆の結果が出ることは明白です。彼は『日経ビジネス』の記者だったので、この程度のロジックを理解していないとは考えにくい。

連立とのかねあいで考えると、2の可能性も強い。特に菅氏は、前の通常国会で社民党と一緒に製造業派遣の禁止法案を提出すると表明していました。しかし社民党は、それほど強く雇用規制を求めていないし、沖縄の基地問題のように駆け引きの材料にもしていない。連合が民主党内の労組系議員に働きかけたことも考えられますが、長妻氏は労組系ではなく、どちらかといえば日経グループの「財界系」出身です。

3も考えられますが、私の印象では厚労省の家父長主義はそれほど強い信念ではなく、小泉政権のころは雇用流動化を進める官僚も多かった。むしろ政権党に迎合する傾向が強いので、彼らが民主党の方針に沿った法案をつくって「大臣レク」をやり、長妻氏がそれに洗脳されたというのが、ありそうな原因ではないでしょうか。

つまり「規制強化で雇用情勢が改善する」という幻想を民主党が選挙で振りまき、それに厚労省の官僚が呼応し、社民党や連合がそれを応援する、という形で共同幻想が形成されたように思われます。その結果、派遣労働者が失業しようがアルバイトになろうが、民主党にとってはどうでもいいことで、どうせ規制強化は来年4月以降だから、悪い結果が出るのは夏の参院選のあとだ――と長妻氏が考えているとすれば、政治家としてはなかなかしたたかな計算です。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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