医薬品のネット販売禁止が問いかけるもの - 泉ゆきなり

泉 ゆきなり

今年は改正薬事法により、医薬品のネット販売が規制されました。厚生労働省の省令では、医薬品は対面販売が原則であるとし、対面でないネット販売はリスクが最も低い第3類医薬品しか販売が認められません。ただしこの禁止には経過措置があり、「薬局・店舗のない離島居住者」と「改正法施行前に通信販売で購入した医薬品の継続購入者」については、2年間(2011年5月31日まで)第2類医薬品の通信販売を認めるとされました。


ご存じのとおり、この規制は医薬品のネット販売に大きな打撃を与えました。既存の業者は、これまで売ることができていた大衆医薬品を売ることができなくなった分、確実に売上が落ちます。売れる薬が限られているため、新規顧客の獲得も困難になりますし、業界へ新規参入もうまみがなくなりました。育ちつつあった医薬品ネット販売というマーケットは、国の規制によって潰された形となりました。

しかし、この期に至っても何とかこのマーケットのともし火を消すまいと成長を模索する業者もいます。

ケンコーコムは、事業の拠点をシンガポールに移しました。日本のサイトでは日本の規制に沿った形での販売とし、シンガポールのサイトでは第1類医薬品まで販売しております(形態としては個人輸入のようです)。これを「国外逃避型」とでも呼びましょうか。

また、「対面販売・買物代行」なる方式を採用した業者もあります。これは買物の依頼を受けた代行業者が薬局で買いつけ、注文者に発送するというもので、薬局と注文者の直接取引ではなく、形式的に買物代行業者が間に入るという「脱法型」とでも呼びましょうか。

「国外逃避型」はもはや日本の当局の規制は簡単には及びませんが、「脱法型」については検挙するかしないかは当局次第です。当局はこの動きを潰すのでしょうか、それともパチンコや売春のように黙認するのでしょうか。

この問題を見ていると、世の中の流れに合わない規制をするとどうなるのかがよく分かります。医薬品を手軽に買いたいというニーズはもはや誰にも止められるものではなく、ましてやインターネットは国の規制など簡単にすり抜けてしまいます。

こういう帰結はアメリカの禁酒法を思い起こせば明らかなのですが、21世紀に至っても日本の優秀な官僚が間違いを犯す(それとも確信犯か?)のは悲しいことです。

コメント

  1. 未来 より:

    確かに変な規制ですね。

    時限的とは言え、離島は規制しないで他は規制するなんて~

    離島の方の命と他地域の命の重さに差があると言う事でしょうか?

    命が大事だから規制するはず。

    でも、離島の方の命が大事だから今回は規制をしなかったはずです。

    なんか厚生労働省のやっていることが理解出来ない。
    規制しない事が命を大事にする事のように思いました。

  2. https://me.yahoo.co.jp/a/u540mrdbVIb5etvNTFCFUJ40iuo-#576de より:

    医薬品ネット販売禁止→既存の薬局や薬剤師が儲かる。
    無駄な延命処置→病医院、薬屋、医者が儲かる。
    学校教育長期化と資格をリンク→すでに取得している現役教師と学校が儲かる。
    理容店の洗髪設備義務化→千円散髪の新規参入を妨害することにより既成店が儲かる。
    他にも、新聞の特殊指定、著作物の再販制度、記者クラブ制度など、既得権者の利益のためだけに存続しています。

    これらは既得権者にとっては経済合理性があり、しかも政治的発言力が強いため、改めるのは容易ではない。
    被害者は消費者なのだが、消費者自身がこのことに気がついていないわけで(「1段階論理の正義」を知っているここの読者は除く)、まぁ永久に変わらないでしょうね。
    床屋の場合は県単位なので、その手の民度の低い県には買い物や旅行に行かないことにしよう。
    例えば首都圏でいえばダ○○○マ県とか…

  3. 現役の薬局の店員ら言わしてもらっても、やはり今回の規制はおかしなものですね。「対面販売」を基本にした薬事法の改正ですが、薬剤師または登録販売者が薬の説明をすることと言う建前ですが、実際問題お客さん自身の判断で買っていますしね。ネットを規制する「対面販売が出来ない」は大義名分は有名無実化しています。

    あと既存の薬局・薬剤師が儲かると言う話ですが、ネット販売云々より、第1類医薬品のカテゴリーの厳格化で守られているよな気がしますね。正直、既存の個人薬局にくるお客さんは年配の方が多いので、ネット規制に大きな意味があるとは思えませんので。

  4. aobatyouzai より:

    主に調剤を実施している薬局の薬剤師です。

    経済、規制緩和を重要視すれば、泉氏の指摘するとおりです。
    他の商品のように医薬品を手軽に買いたいという要望がわが国の大勢となっている現状では、仕方がないのかも知れません。
    一方で市販薬購入に関する国別調査では、日本は市販薬を購入する際、価格を重視し薬剤師からの情報を軽視する傾向が指摘されています。日本人にとっては当たり前のことですが、世界的には特徴的なことです。

    この国の(ある意味歪んだ)高コスト医療体制は、今後長くは続きません。他国のように軽医療や慢性疾患は保険から切り離され、多くの医療用医薬品も市販薬へとスイッチされます。
    世論が国政をも動かすご時勢ですから、国民も真面目な議論をすべきです。便利かどうかを唯一の判断基準とするのなら、市販薬のモラルハザードは広がるのみです。(例えば、良識ある医療関係者なら、風邪の予防にうがい薬の使用は勧めません)

  5. bakabakaweb より:

    >薬剤師からの情報を軽視する傾向が指摘されています。
    軽視ではなく、そもそも薬剤師がダレなのか、どこにいるのか、どう相談するのかが分からないからだと思います。

    薬局で薬を持ってレジへ行っても、レジ打ちが薬剤師であっても、一言も声を掛けずに「いくらです」なんてことはよくあることだと思います。
    このような名ばかりの対面販売だから、価格を重視し薬剤師からの情報を軽視するのではないのでしょうか?

    「医薬品の副作用による被害を予防するためには、対面販売が必要」というのが法改正の基本なのですから、薬剤師側から「販売にあたった薬剤師は何らかの責任を負います」ぐらいの発言があってしかるべきだと思います。
    店舗側でも「対面販売」ではない限り販売できないなどの制限をかける必要があります。そうでなければ、そもそもの法改正の基本が守られていません。

    こんな基本が守られる話がないのに、ネット販売が規制されるというのは、既得権保護と言わざる得ないと思います。
    なぜ薬剤師からの情報が軽視されるのか、どのようなサービスをすれば軽視されないのか、薬剤師の方々が考えるべきだと思います。

  6. 海馬1/2 より:

    皆保険制度のおかげで、体調を崩せば、すぐ医師に掛かることができるので、市販薬を栄養補助程度感覚でとらえることへの警鐘としてはよろしいのでは?離島・僻地に郵送禁止なら、
    管轄の保健行政が受注窓口(薬剤師による説明)して発送すればどうか? 「薬剤師免許を持った置き薬売り」が、納品時(数ヶ月毎)に購入者と対面して、服用時に電話で指導するのは違法なのですか?

  7. aobatyouzai より:

    大手ドラッグストアや調剤薬局チェーンが大勢を占める現在、薬剤師としての職能は、残念ながら企業文化の下に埋没しています。売り上げや利益を優先すれば、対面販売などはない方が良いわけで

  8. aobatyouzai より:

    大手ドラッグストアチェーンや調剤薬局チェーンが大勢を占める現在、薬剤師の職能は企業文化の下に埋没しています。

    売り上げや利益を優先する企業側からすれば、手間の掛かる対面販売などは建前だけのほうが望ましい訳で、薬を販売している側も一枚岩ではなく、(先の選挙で囁かれていたように)国民が寝たままの状態を好む立場もあるということです。

    多くの国民がドラッグストアでの市販薬の購入を志向する現状、もはや日本薬剤師会の影響力はほとんどありませんし、行政指導などの行動に一貫したビジョンを持つ国でもありません。

    アトピービジネスの初期と同じ構図です。

    医療崩壊、歯科医療崩壊などにも言えることですが、失策は簡単にはリカバリー出来るものではありません。

  9. 海馬1/2 より:

    >売り上げや利益を優先すれば、対面販売などはない方が良いわけで

    って、薬害被害の賠償を企業がすべて引き受けるとでもお思いですか? 役人なら行政監督として、法整備はするでしょう。
    でなければ、退職後に『逆恨み』で暗殺テロに逢います。

  10. agora_inoue より:

    >医療崩壊、歯科医療崩壊などにも言えることですが、失策は簡単にはリカバリー出来るものではありません。

    歯科医療崩壊とは、ちょっと新しい言葉ですね。単に歯科医師過剰のために、歯科診療所が儲からなくなっただけのことではないでしょうか。一方、患者の利便性は格段に上がりました。休日夜間でも営業しています。どういう問題があるんでしょうか?