元凶は年功序列だ - 『「天下り」とは何か』

2010年01月10日 11:35

★★☆☆☆(評者)池田信夫

「天下り」とは何か (講談社現代新書)「天下り」とは何か (講談社現代新書)
著者:中野 雅至
販売元:講談社
発売日:2009-12
おすすめ度:4.0
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民主党が野党時代にもっとも激しく追及していたのは、官僚の天下りだった。ところが政権につくと、日本郵政の社長や人事院の総裁に天下り官僚をすえ、あっさりその方針をひるがえしてしまった。万事いいかげんな鳩山内閣の政策の中でも、これほどいい加減なものは珍しい。それ以来、民主党は「天下りの廃絶」をほとんどいわなくなり、公務員制度改革も、いつ出るのかわからない。

民主党が腰くだけになったのは、彼らが天下りの本質を取り違えていたからだ。天下りは日本のゆがんだ公務員制度や官民癒着の結果であって原因ではない。天下りだけを規制しても、現在の官僚機構を変えないかぎり、ゆがみは違う形で再生産される。本書は、その実態を『天下りの研究』で明らかにした著者が、研究内容をコンパクトにまとめたものだ。

著者が強調するのは、天下りは官僚機構の昇進システムの一環だということである。「同期」が横並びで昇進する厳格な年功序列を守るかぎり、上に行くほどキャリア官僚のポストがなくなるのは当たり前で、窓際ポストで処遇するか「肩たたき」によって追い出すかしかない。そのとき就職先を斡旋しないと肩たたきにも応じてくれず、役所の人事も滞ってしまう。老後の保障がないと、若い官僚の士気も低下する。

・・・というのが役所の論理だが、これは年功序列を守ることを前提にしている。民間企業では生産性の低い中高年に高給を出せなくなっているため、40代後半から昇給はフラットになり、ポストのない中高年社員を専門職として処遇するしくみが徐々にできている。ところが官庁はこういう改革をまったくやってこなかったため、高級官僚には専門知識がなく、民間でつぶしがきかない。若い官僚はこうした状況の変化を察知して、従来の役所の序列では傍流だった研究所などの専門職に人気が集まるようになっている。

だから天下りをなくすためには、単純にそれを規制するよりも、年功序列を廃止して能力主義を徹底し、いろいろな部署を回るローテーションをやめて専門職をきちんと処遇するなど、公務員制度の抜本改革が必要である。本書は天下りの個別ケースについてはよく調べているが、データがアドホックで分析が表面的だ。官僚機構の構造を解明するいい切り口なのに、役所の内輪話で終わっている。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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