松本さん反論ありがとうございます - 原淳二郎(ジャーナリスト)

2010年01月12日 19:34

松本さん、ご丁寧な反論ありがとうございます。久しぶりに書く意欲をかきたてられました。

私はNTTの民営化前からずっと通信業界を見てきました。ですからNTT再編論議には辟易しているのは事実です。NTTが政治家たちに影響力を及ぼすためのチームがあることも知っていますが、彼らにオルグされたのではないかという指摘はただの推測です。郵政民営化の時、民営化に反対する郵政官僚から「ぜひご理解いただきたい」と働きかけを受けたことはありますが、それで郵政民営化反対論を書いたことはありません。正しい主張には耳を傾けますが理に合わないことは理に合わないと書く。それがジャーナリストです。


松本さんは、光アクセス回線では赤字になり、これ以上投資をする意欲があるとは思われません、とおっしゃいますが、光アクセス回線がいまだにもうからないのはNTTも同じです。光回線を8分岐するだけでなく局内で4分岐し結局32分岐してコストを下げています。また減価償却期間を延長して見かけの利益をだしているにすぎません。

電話時代のメタルアクセス回線を競争事業者がNTTと対抗して敷設することは困難でした。通信の競争を進めるためNTTが独占するアクセス回線開放が必要だったのは間違いありません。しかし、光アクセス敷設競争はヨーイドンでスタートしたはずです。

アクセス回線を持ったことがない事業者がNTTと競争で敷設するには不利な条件があったのは確かです。それにしてもNTTにできてなぜ電力にはできないのでしょうか。電柱や地下の配管など電力会社はほぼ同じような設備を持っています。ほぼ同じ条件で競争できたはずです。関西電力系のケイオプティコムが健闘しているのはこのことを証明しています。それなのに東電はなぜ撤退したのでしょう。

松本さんはこうも書いてます。

日本のブロードバンドが一気に進んだのは、ソフトバンク(ヤフーBB)がNTTからメタル回線を借りてADSL事業を始め、蛮勇を振るって価格破壊をしたからです。

この論は我田引水もいいところです。ADSLでソフトバンクが価格破壊できたのはなぜでしょうか。東京メタリック通信というADSLのベンチャー企業が破綻し、それを安く買い取ったからです。現役時代の最後に直接取材していたのでよく知っています。また渋々ながらもNTTがADSL向けに加入者線(メタルのアクセス回線)を内外無差別で開放する路線に転換したことも大きいでしょう。

ソフトバンクはこの時ADSLルーターを無料で配るなどして一気に加入者を増やしました。設備が追いつかずユーザーが大いに迷惑しましたが、通信業界に参入するにはこれくらいの決断をしなければ成功はおぼつかないということです。通信事業はインフラ投資に耐えられるだけの体力が必要なのです。

かつて独占事業者からお裾分けしてもらう、つまりおいしいとこ取りするという意味のクリームスキムは電話時代のことです。競争事業者を意識的に育てるための方策でした。新旧事業者が同等の競争をする時代になってもこの論理を主張するのはおかしくないですか。競争でNTTが不当な競争制限をしているなら、公正取引委員会に訴え処分をしてもらうのが筋です。

松本さんが問題の本質というアクセス設備のアンバンドリング(通信設備を構成要素ごとに分けて新規参入者に不可欠な要素をコストで開放すること)はATT分割後の米国で導入され、NTTも見習ってきました。光にもそれを適用せよというのが、競争事業者の要求であることは分かっています。しかし、先にもいった通り、光はヨーイドンでスタートした分野です。初めからハンデキャップをつけて競争することこそ不公正です。

光アクセスでNTTが勝負に勝って独占状態になったのなら、また他の手段でNTTの光アクセス独占を崩す方法も事業者もないことが明らかになってから持ち出す話です。

光インフラ部門を分離しNTTも他事業者も公平に利用できるようにせよと松本さんは主張されています。独占インフラ会社をつくれ、国民が監視すればいいともおっしゃいます。

90年代の初め、光公社構想というのがありました。いま情報通信法が検討される中で復活する動きがあります。光アクセス分野では競争が実現しないから、水平分離しようという考え方です。親方日の丸のアクセス会社をつくるのと同じです。国民監視の中で運営するのだそうですが、かつての電電公社も国会の監視のもと運営されていたことを忘れた議論です。まして光公社の仕事は国民からは見えない存在です。公社のユーザーは事業者だけです。監視を口実に光公社を自社の利益のため食い物にする恐れがあります。インフラ会社が大赤字になったらまた税金を投入させられることになりかねません。競争を主張する人たちが親方日の丸の独占公社を作れというのはそもそも論理矛盾です。

立派な学校Aと設備を持たない学校B、Cの比喩も語られています。「空いているときにはB校やC校の生徒にも設備を使わせてやってほしい」と申し入れましたが、「悔しかったら、自分で講堂を作ったらいいじゃあないですか」と、A校の返答はにべもありません。

通信と教育を比較するのはいかがかと思いますが、いい学校にいい生徒が集まり設備も立派になるのは当然です。かつて都立高校が没落、私立高校が台頭したのは馬鹿げた学校群制度の導入がきっかけでした。公立学校に格差があるのはけしからんという理由でした。通信業界に格差があるのはけしからんから、光を分離せよという議論はとてもよく似ています。

インフラレベルの競争は出来るのか出来ないのか。そこを判断するのが先決。私のこの意見には賛成されています。私立学校は高い授業料を取り、いい先生を引き抜き公立学校に勝ったのではありませんか。

全ての議論は、「この競争が難しい」という結論から出てきている議論(ボトルネック独占論)ですとおっしゃいます。その通りですが、ボトルネック論も米国発の議論です。1984年ATTによる通信独占を崩し、長距離と7つの地域電話会社に分割しました。長距離会社が最も収益性が高いとの予測のもと、かのベル研も長距離会社のATTに残りました。しかし、結果は東部を基盤とする地域電話会社ベルアトランティックに統合されました。地域電話会社のボトルネックであるアクセス回線独占を崩すために先に述べたアンバンドリングが導入されましたが、裁判でその多くのルールは地域電話会社の財産権の侵害であるという判決が出ています。アクセス分野での競争促進にはケーブル会社との競争を促進する政策が採られました。

これらのことは松本さんは先刻ご承知のはずですから、これ以上は述べませんが、ボトルネック解消の基本はインフラレベルの競争促進のはずです。インフラの競争ができないというのであればまずそれを証明し公正取引委員会に独禁法適用除外をしてもらう必要があります。しかし、そうした動きはほとんどありません。審議会やタスクフォースなどの場所でNTTの光独占を声高に主張し、メディアを味方につけて政治的に自らの利益を追求しているようにしか私には見えないのです。

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