自民党の迷える保守主義 - 池田信夫

池田 信夫

産経新聞によると、自民党が24日の党大会で発表する運動方針案は「保守色を前面に出した」ものだという。私は「自民党は保守主義で再生せよ」と書いたので、これは一見けっこうなことだが、その内容をみて唖然とした。産経によれば、その骨子は、

  • 品格ある日本を目指す

  • 靖国神社参拝を受け継ぐ
  • 早期の憲法改正を実現
  • 消費税の全額が社会保障給付と少子化対策に充てられることを明確化し、税率を引き上げ
  • 日本の歴史と伝統を重んじる教育を目指す
  • 自衛隊の憲法上の位置付けの明確化
  • 北朝鮮に断固とした対応
  • 領土問題の解決に努める
  • 参院選で第一党を奪取

というもので、税制以外の経済政策がなく、もっぱら国粋主義で支持を回復しようという方針のようだ。これは投票率の高い高齢者をねらう選挙戦術としては、それなりに意味があるのかもしれないが、普通の有権者の関心とかけ離れている。靖国神社の参拝とか「歴史と伝統を重んじる教育」といった問題が、今の日本で重要なのだろうか。

運動方針案を策定する過程では、「小さな政府」をめざすという方針を明記すべきだという意見が党内に強かったが、それは小泉改革を連想させるという理由で「不必要なことをせぬ政府」という腰の引けた表現になってしまった。この背景には小泉改革が格差や貧困をまねいて総選挙の敗北をまねいたという判断があるらしいが、菅原琢氏も指摘するように、これは誤りである。都市部の有権者は、2005年の郵政選挙で小泉改革を圧倒的に支持し、それは今も続いているのだ。

選挙の鍵を握る無党派層が関心をもっているのは、憲法改正や領土問題ではなく、果てしなく続く経済の低迷からの脱却である。それは自民党のお家芸であるバラマキ公共事業では実現できないし、民主党のバラマキ福祉でも実現できない。政府が規制を撤廃して新規参入や競争を促進し、民間活力を引き出すことによってしか経済は回復しない。ひとことでいえば、小泉改革の小さな政府路線に立ち返るしかないのだ。

民主党の「大きな政府」路線は、史上最大の規模にふくらんだ予算によって破綻に瀕している。ここで自民党が大胆な世代交代を行なって小さな政府を掲げれば、参院選で勝機もあろうが、こんな古色蒼然たる運動方針では惨敗は必至だ。党内では早くも「ポスト谷垣」が取り沙汰され、さみだれ的に離党が相次ぎ、舛添要一氏など公然と政界再編をめざす動きが出ている。みんなの党の渡辺喜美代表は、「新旧分離」によって自民党を「清算会社」にしようと呼びかけている。

しかし参院選まで、あと半年しかない。自民党が大転換を行なうことは不可能だろう。このまま惨敗してミニ政党になれば、ゼロから出直す以外の選択肢はなくなるだろう。「古い日本」を象徴する自民党が消えてなくなることは、日本が立ち直るための第一歩である。

コメント

  1. hogeihantai より:

    与野党合わせれば、産めよ増やせよの少子化対策、国粋主義、反米、大東亜共栄圏、領土拡張、デジャヴの感じですね。経済が行き詰まり、閉塞感が強くなると人が考えることは同じですね。歴史は繰り返す。政界再編とは翼賛政治界のことかも。

  2. edogawadamo より:

    自民党が今でも反小泉なのは、バラマキを否定すると地方選出議員の選挙基盤を脅かすと考えるからでしょう。小泉氏が首相の時は彼の人気に便乗していれば当選できたが、今はそうしたカリスマ的存在がいない。だから、政策的には不毛と判っていても、民主党とばら撒き競争をするしかないと言う判断でしょう。

    日本では昔から小さな政府路線と言う意味での保守党は存在しなかった(そういう意味では真に社会主義だった)。右と左の違いといえば、天皇を崇拝するかしないか、反米か親米か、財界(市場ではなく一種の圧力団体)寄りか否か、と言ったことしかなかった。

    自民党はこれからも似たような戦いをするつもりなんでしょうけど、これから老人ボリュームゾーンは団塊世代ですから、「右」で戦うのは明らかに不利だと思いますけど。ひょっとして、ネット右翼のような若い世代を狙っているんでしょうか?

  3. itnypartners より:

    複数の欄にまたがるコメントは、内容を問わず削除します。

  4. kakusei39 より:

    猫 さま

     池田先生の書評にもありましたが、菅原琢氏の「世論の曲解」をお読みになったほうが良いですよ。国民は、改革に賛同して小泉政権を支持したことがデータで明確に示されています。
     ところが、安部政権で改革よりイデオロギーに偏った政権運営をして、改革支持の都市部の支持者が離れ、次いで周辺部の支持者も離れて行ったのを、小沢流バラマキで負けたと曲解して、更に支持者を失う方向で政権を保とうとした訳で、民主にやられたのではなく、自分で仰向けに転倒したのです。
     あなたのお話も、小沢氏は2重政権にならないなどの、外れてばかりの予見が示すように、失礼ながら考察不全だと思いますね。10年経って自民が政権奪回するばかりのお話でしたが、自民が無くなる可能性のほうがずっと大きいと思います。種々のアンケートなどから、民意が読めないし、国民生活を維持するには何をしたら良いかも理解していない、勉強不足の政治家集団だと思いますね。

  5. 松本徹三 より:

    産経の報道が正しいとすれば、「ここまで勘違いできるのか?」と、唯々驚くばかりです。2チャンネル風に言うなら、「自民党オワタ(終わった)」ということです。

    このような感覚では、ある程度の固定客は確保できても、とても「二大政党」の一方になるのは無理でしょう。(国民は多くはそれ程単純ではありません。) 

    これからの軌道修正が無理なら、やはり解党しか道はなさそうです。

    ちなみに、このような国粋的な話題を出すと、ネットの世界では一握りの「ネウヨ(ネット右翼)」の人達がいつも大いに盛り上げてくれるので、これも自民党の勘違いの原因の一つになっているのではないでしょうか?

  6. tkoide より:

    高齢者は、自分たちが生きた時代が、もうすでに、ずうっと進んでいることを、自分たちの考えが今の時代には合わなくなってるってこと知っています。

    それなのに、そんなものに迎合しようとする浅ましさは、彼らの尊厳を蹂躙するもので、この政党は救いようのない状態で、破滅というより、消失が必然なんだということ。