経世会的なるものの終焉 - 池田信夫

2010年01月16日 00:28

民主党の小沢幹事長の元秘書などが逮捕されたニュースは、いったん落ち着いたと思われていた問題にあらためて火をつけました。まだ事実関係がはっきりしませんが、これまで報道されただけでも驚くべき事実が含まれています。それは小沢氏の裏金(?)4億円が鹿島などのゼネコンから提供されていた疑いが強いことです。


小沢氏は田中角栄直系の経世会の中心人物でしたが、田中と金丸信がカネの問題で失脚した経験に学び、政治資金については人一倍厳重に管理し、カネの出入りを公開していると思われていました。それが裏金という明白な違法行為に手を染めていたというのは信じられない。今どき自民党の政治家でも、こんな賄賂性の強い巨額のカネを受け取っている人はいないでしょう。

他方で「ああやっぱりな」という感じもあります。小沢氏は、自民党の中でもっとも自民党的な経世会の嫡子であり、利益誘導型政治のエキスパートです。それは高度成長の果実を地方に還元する自民党政治の中核的な機能でもありました。しかしその機能は90年代に崩壊してしまい、小沢氏はサッチャー=レーガン的な『日本改造計画』を掲げ、そういう古い自民党に決別した・・・はずでした。

ところが自由党を解党して民主党に合流してからの小沢氏は、以前の新保守主義的な主張とは逆に、農業所得補償や子ども手当などのバラマキ福祉に転換し、持論だった改憲論も封印してインド洋の給油に反対し、沖縄の基地問題でもかつての親米的な姿勢はみえない。かろうじて親中的な面だけが田中角栄に似ているぐらいです。

なぜこんなに変わってしまったのか――という私の質問に、『改造計画』のころ小沢氏と仕事をした大蔵省のOBは「小沢さんは昔とまったく変わっていない」といいました。彼によれば『改造計画』のほとんどは大蔵官僚が書いたもので、小沢氏が書いたのは有名な序文の「グランドキャニオンの柵」の話とイギリスの議会の部分だけだったとか。小沢氏は昔から権力を取ることにしか関心がなく、政策はそのための手段なのだ、というのが彼の解説でした。

そう考えると、小沢氏のこの20年の行動は一貫したものと解釈できます。彼にとっては、かつての新保守主義が自民党で権力を取る(それに失敗すると党を割る)ための理論武装だったのと同様、今の社民主義も自民党をつぶすための手段に過ぎないのでしょう。「政策より政局」というマキャベリズムは、田中角栄以来の伝統でもあります。田中の政策は、自民党としては社民的で一貫性がなく、利権の拡大のほうが目的でした。

こういうマキャベリズムが魑魅魍魎の跋扈する政界を生き抜くのに必要であることは確かでしょうが、いうまでもなく本末転倒です。小沢氏の側近が次々に離れてゆくのも、このような彼の冷酷な面をきらったケースが多い。「彼の社民的な顔は参院選までの仮面で、それから本性をあらわす」という推測もありますが、残念ながらその当否を確かめることは不可能になりそうです。

かつてはきわめて論理的でスケールの大きい政治哲学をもった政治家として海外からも評価の高かった小沢氏が、こんな汚職事件によって政界から姿を消すとすれば、日本の政治は田中角栄の時代から何も進歩していなかったことになります。政界の「失われた15年」は終わったように見えましたが、有権者が失った歳月を取り戻すには、また10年ぐらいかかるのでしょうか。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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