株式会社ライブドア メディア事業部長 田端信太郎 (個人ブログ:TABLOG)
これからのダイレクト・マーケティングにおけるメディア出稿業務は、ファンドマネージャーのような仕事に近づく、という記述を、下記の本に見つけました。皆さんの中には、広告宣伝という仕事と、資産運用の仕事の間で、一体どこに共通点があるのだろう?と不思議に思われる方も多いと思います。
単品通販“売れる”インターネット広告
しかし、私にしてみれば、依頼者(プリンシプル)から、貴重な資産(運用資金/広告予算)を預かり、複数の対象(金融商品/広告枠)に投資し、合理的なプロセスで意思決定しながら、最適な結果を出すために、そのプロセスをチューニングしつづけていく、依頼主のエージェントになる、という意味では、これからの広告会社には、ファンドマネージャーのような姿勢が求められていくのでないか、と考えています。
そこでは、全てが数字に置き換えられ、一挙手・一投足に説明責任が求められるような厳粛な世界です。
さて、今日は、この分野に余り馴染みのない方のために、広告におけるメディアプランニング、バイイングと、金融における資産運用との類似点を説明します。また、そのことによって、インターネット技術が広告業界にどのようなインパクトを与えているのか、皆さんの理解の一助となれば、幸いと思います。
________________
広告媒体には、それぞれ、リーチ(接触者)のスケールというものがあります。
・テレビは数千万人にリーチできる媒体です。
・新聞は、ほぼ数百万人へのリーチになります。
・検索連動広告は、キーワードによりますが、数百人〜数万人単位まで絞れます。
広告媒体を買う側にしてみれば、媒体の最適スケール、スイートスポットに適した規模で広告予算を投下しないと、費用対効果が、どんどん悪化してしまいます。
単純化した架空のモデル例で説明するとこうなります。
Q1:お取り寄せグルメの市場を狙って、手作りの味噌を定期的に宅配するネット事業を展開する広告主Xがあります。これまで、検索連動広告に月10万円使い、月に100件の新規申し込みを獲得していました。来月からは、月30万円まで予算を増やします。さて、注文はどれくらいになるでしょうか?
A1:ほぼ3倍の300件になると期待できます。
月で数十万、獲得で数百人という規模は、検索連動のスイートスポットに入ったままなので、使った広告予算に比例した広告効果が見込めるからです。
Q2:中古車買取事業を展開する広告主Yは、これまで検索連動広告に、月3億円を投下し、月間3万件の中古車買取件数を獲得してきました。(獲得単価1万円)
来月から、検索連動広告への予算を、3倍の9億円に増やそうとしています。広告主Yが、最終的な効果測定の指標としている、買取件数は来月から、3倍の9万件になるでしょうか。
A2: 3倍になることは、(まず間違いなく)期待できません。
月間10億規模という予算感や、獲得件数が、すでに検索連動のスイートスポットからズレだしてしまうからです。
ところが、Q2の変形で、以下のQ3を考えてみてください
Q3:中古車買取事業を展開する広告主Yは、これまでテレビCMに、月2億円を投下し、月間1万件の中古車買取件数を獲得してきました。(獲得単価2万円)
来月は特別キャンペーンで、テレビCMの予算を3倍の月6億円に増やそうとしています。広告主Yが、最終的な効果測定の指標としている、買取件数は来月から、3倍の3万件になるでしょうか。
A3:(ほぼ)3倍近くまで伸びるといってもいいのではないでしょうか。
予算規模や、申し込み数が、テレビCMのスイートスポットに入っているからです。
ここまで語ってきたようなことを、グラフにして、モデル化するとこういう感じになります。(広告主Aは、いわゆるナショナルクライアント規模を想定。)

つまり、紙やネット、テレビといった、複数のメディアを横断しながら、最適なメディアを選ぶのは、ゴルフでのクラブ選択のようなものです。
・必要なリーチの規模 = ゴルフで言えばティーからカップまでの距離
・検索連動のようにターゲティング精度は高いが、スケールの小さい媒体 =パター
・テレビCMのようにリーチを稼げるが、精度は悪い媒体 =ドライバー
トヨタのようなナショナルクライアントは、超ワイドな消費者層(全国の老若男女)をターゲットにしているわけですが、これはゴルフでいえば、長ロングホールのようなものです。必然的にキャディバッグから、ドライバー(=TVCM)を取り出す比重が増えます。
お取り寄せグルメのネット販売をやる地方の手作り味噌店は、そもそも、販売できる量にも限りがありますから、これは、ゴルフでいえば、パットゴルフのコースにいるようなものです。必然的にパター(=検索連動広告)以外は、出番がなくなります。
SEOや検索連動広告で集客し、ネットショッピング事業を個人でやっているような人にしてみれば、「TVCMの費用対効果なんて、非常に悪いのに、未だにTVCMやってる大手の広告主って何考えてるんだろう〜?」と不思議に思うかもしれません。
しかし、この考えは、パットゴルフ場にしか出入りしたことがない人が、7000ヤード以上ある競技コースにチャレンジするトーナメントプロに対して「ドライバーなんて、とり回しの難しいクラブ、よく使うよねぇ〜、バカじゃない?」と言うに等しいことだと思います。
あるレベルを超えた規模で広告宣伝をするメガクライアントにとっては、TVCMに代表されるオフラインの広告媒体を利用しないことは、かえって非効率になります。(このことを、きちんと理解しているネット広告業界の人は、そんなに多くなさそうです。)
私は、当然のことながら、テレビや新聞といったトラディショナルなメディアから、広告費は、ネットにシフトしていくべきだというポジションを取る人間ですが、だからこそ、テレビや新聞が、ある場面において、広告主にとって必要になってくるロジック、というものをきちんと押さえたうえで、お客さんと、商談をせねばならないと思っています。
しかし、ゴルフクラブの番手ごとの飛距離、というのは、常に決まっていますが、現在のように、ネットへのユーザーシフトが起こり、広告技術の変化が激しい環境は、「クラブごとの飛距離」が、どんどん変わっていくような状況です。これは、ゴルフで言えば、いつのまにか、300ヤード飛ばしつつ、パターのように正確、みたいな新型のクラブがどんどん出てきても不思議ではない状況とも言えます。そういう場面では、新しいクラブの使い方に精通できるかどうかが、企業間での競争力を決定的に分けるカギともなります。
ネットをマーケティングに使えるかどうかは、今後、企業にとって、ますますそういった意味を持ってくると思います。(かっては、ウッドというのは、文字通り、「木」で出来ていました。いま、メタルヘッドでない、木のウッドを使っているプロは、どれだけいるでしょうか・・・)
さて、広告におけるメディアプランニングと、金融における資産運用との類似点を説明する、と冒頭に述べましたが、、今日出てきた、複数の広告媒体間での、最適な配分を説明するグラフは、投資理論に詳しい方ならすでに、お気づきかもしれません。あのグラフが想定する考え方は、複数の金融資産(株や債券など・・)を、リスクとリターンをコントロールしながら、どのようにポートフォリオ全体のリターンを最大化するか、という、いわゆる「効率的フロンティア」の議論に酷似しているものだと言えます。
いま、金融業界は大不況ですから、クオンツ運用みたいなことをやっていた人は、こういったメディア最適化アルゴリズム方面に、新たな道を求めるのも面白いように、思います。かって、金融工学が、それまでの紳士的で、牧歌的で優雅な金融業界に大変革のインパクトをもたらしたように、「広告工学」とでもいう分野に精通した人間が、これからの広告ビジネス、マーケティングビジネスを大きく変えていくのかもしれません。
これからのダイレクト・マーケティングにおけるメディア出稿業務は、ファンドマネージャーのような仕事に近づく、という記述を、下記の本に見つけました。皆さんの中には、広告宣伝という仕事と、資産運用の仕事の間で、一体どこに共通点があるのだろう?と不思議に思われる方も多いと思います。

単品通販“売れる”インターネット広告
しかし、私にしてみれば、依頼者(プリンシプル)から、貴重な資産(運用資金/広告予算)を預かり、複数の対象(金融商品/広告枠)に投資し、合理的なプロセスで意思決定しながら、最適な結果を出すために、そのプロセスをチューニングしつづけていく、依頼主のエージェントになる、という意味では、これからの広告会社には、ファンドマネージャーのような姿勢が求められていくのでないか、と考えています。
そこでは、全てが数字に置き換えられ、一挙手・一投足に説明責任が求められるような厳粛な世界です。
さて、今日は、この分野に余り馴染みのない方のために、広告におけるメディアプランニング、バイイングと、金融における資産運用との類似点を説明します。また、そのことによって、インターネット技術が広告業界にどのようなインパクトを与えているのか、皆さんの理解の一助となれば、幸いと思います。
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広告媒体には、それぞれ、リーチ(接触者)のスケールというものがあります。
・テレビは数千万人にリーチできる媒体です。
・新聞は、ほぼ数百万人へのリーチになります。
・検索連動広告は、キーワードによりますが、数百人〜数万人単位まで絞れます。
広告媒体を買う側にしてみれば、媒体の最適スケール、スイートスポットに適した規模で広告予算を投下しないと、費用対効果が、どんどん悪化してしまいます。
単純化した架空のモデル例で説明するとこうなります。
Q1:お取り寄せグルメの市場を狙って、手作りの味噌を定期的に宅配するネット事業を展開する広告主Xがあります。これまで、検索連動広告に月10万円使い、月に100件の新規申し込みを獲得していました。来月からは、月30万円まで予算を増やします。さて、注文はどれくらいになるでしょうか?
A1:ほぼ3倍の300件になると期待できます。
月で数十万、獲得で数百人という規模は、検索連動のスイートスポットに入ったままなので、使った広告予算に比例した広告効果が見込めるからです。
Q2:中古車買取事業を展開する広告主Yは、これまで検索連動広告に、月3億円を投下し、月間3万件の中古車買取件数を獲得してきました。(獲得単価1万円)
来月から、検索連動広告への予算を、3倍の9億円に増やそうとしています。広告主Yが、最終的な効果測定の指標としている、買取件数は来月から、3倍の9万件になるでしょうか。
A2: 3倍になることは、(まず間違いなく)期待できません。
月間10億規模という予算感や、獲得件数が、すでに検索連動のスイートスポットからズレだしてしまうからです。
ところが、Q2の変形で、以下のQ3を考えてみてください
Q3:中古車買取事業を展開する広告主Yは、これまでテレビCMに、月2億円を投下し、月間1万件の中古車買取件数を獲得してきました。(獲得単価2万円)
来月は特別キャンペーンで、テレビCMの予算を3倍の月6億円に増やそうとしています。広告主Yが、最終的な効果測定の指標としている、買取件数は来月から、3倍の3万件になるでしょうか。
A3:(ほぼ)3倍近くまで伸びるといってもいいのではないでしょうか。
予算規模や、申し込み数が、テレビCMのスイートスポットに入っているからです。
ここまで語ってきたようなことを、グラフにして、モデル化するとこういう感じになります。(広告主Aは、いわゆるナショナルクライアント規模を想定。)

つまり、紙やネット、テレビといった、複数のメディアを横断しながら、最適なメディアを選ぶのは、ゴルフでのクラブ選択のようなものです。
・必要なリーチの規模 = ゴルフで言えばティーからカップまでの距離
・検索連動のようにターゲティング精度は高いが、スケールの小さい媒体 =パター
・テレビCMのようにリーチを稼げるが、精度は悪い媒体 =ドライバー
トヨタのようなナショナルクライアントは、超ワイドな消費者層(全国の老若男女)をターゲットにしているわけですが、これはゴルフでいえば、長ロングホールのようなものです。必然的にキャディバッグから、ドライバー(=TVCM)を取り出す比重が増えます。
お取り寄せグルメのネット販売をやる地方の手作り味噌店は、そもそも、販売できる量にも限りがありますから、これは、ゴルフでいえば、パットゴルフのコースにいるようなものです。必然的にパター(=検索連動広告)以外は、出番がなくなります。
SEOや検索連動広告で集客し、ネットショッピング事業を個人でやっているような人にしてみれば、「TVCMの費用対効果なんて、非常に悪いのに、未だにTVCMやってる大手の広告主って何考えてるんだろう〜?」と不思議に思うかもしれません。
しかし、この考えは、パットゴルフ場にしか出入りしたことがない人が、7000ヤード以上ある競技コースにチャレンジするトーナメントプロに対して「ドライバーなんて、とり回しの難しいクラブ、よく使うよねぇ〜、バカじゃない?」と言うに等しいことだと思います。
あるレベルを超えた規模で広告宣伝をするメガクライアントにとっては、TVCMに代表されるオフラインの広告媒体を利用しないことは、かえって非効率になります。(このことを、きちんと理解しているネット広告業界の人は、そんなに多くなさそうです。)
私は、当然のことながら、テレビや新聞といったトラディショナルなメディアから、広告費は、ネットにシフトしていくべきだというポジションを取る人間ですが、だからこそ、テレビや新聞が、ある場面において、広告主にとって必要になってくるロジック、というものをきちんと押さえたうえで、お客さんと、商談をせねばならないと思っています。
しかし、ゴルフクラブの番手ごとの飛距離、というのは、常に決まっていますが、現在のように、ネットへのユーザーシフトが起こり、広告技術の変化が激しい環境は、「クラブごとの飛距離」が、どんどん変わっていくような状況です。これは、ゴルフで言えば、いつのまにか、300ヤード飛ばしつつ、パターのように正確、みたいな新型のクラブがどんどん出てきても不思議ではない状況とも言えます。そういう場面では、新しいクラブの使い方に精通できるかどうかが、企業間での競争力を決定的に分けるカギともなります。
ネットをマーケティングに使えるかどうかは、今後、企業にとって、ますますそういった意味を持ってくると思います。(かっては、ウッドというのは、文字通り、「木」で出来ていました。いま、メタルヘッドでない、木のウッドを使っているプロは、どれだけいるでしょうか・・・)
さて、広告におけるメディアプランニングと、金融における資産運用との類似点を説明する、と冒頭に述べましたが、、今日出てきた、複数の広告媒体間での、最適な配分を説明するグラフは、投資理論に詳しい方ならすでに、お気づきかもしれません。あのグラフが想定する考え方は、複数の金融資産(株や債券など・・)を、リスクとリターンをコントロールしながら、どのようにポートフォリオ全体のリターンを最大化するか、という、いわゆる「効率的フロンティア」の議論に酷似しているものだと言えます。
いま、金融業界は大不況ですから、クオンツ運用みたいなことをやっていた人は、こういったメディア最適化アルゴリズム方面に、新たな道を求めるのも面白いように、思います。かって、金融工学が、それまでの紳士的で、牧歌的で優雅な金融業界に大変革のインパクトをもたらしたように、「広告工学」とでもいう分野に精通した人間が、これからの広告ビジネス、マーケティングビジネスを大きく変えていくのかもしれません。





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