「エコで成長」の幻想 - 池田信夫

2010年01月24日 15:11

井上さんの記事で指摘されているように、「環境産業で成長する」というスローガンは、民主党も自民党もみんなの党も成長戦略に掲げていますが、誤りです。これは野口悠紀雄氏も指摘していますが、政治家のみなさんは理解していないようなので、違う角度から説明しておきましょう。


ある産業が成長産業であるためには、(1)その産業に対する需要が増え続け、(2)イノベーションによる供給増の余地が大きいという条件が必要です。たとえばIT産業は、古い設備をソフトウェアに置き換えてコストを削減し、企業や個人の生産性を高めるので、今後も引き続き需要が増え続けるでしょう。イノベーションの速度も、衰える様子が見えません。この二つの要因は関連しており、需要が伸びることが投資を呼んでイノベーションを増やすわけです。

では環境産業はどうでしょうか。環境保護はいいことには違いないでしょうが、便益が社会全体に拡散する外部性が大きいため、個人はコストを負担しないで他人にただ乗りしようとする公共財のジレンマが起こるので、市場は大きくならない。ハイブリッド車などが一時的に流行することはあっても、自動車全体としては安くて環境によくない車のほうがはるかにたくさん売れています。この外部性を内部化する方法は、環境税などの課税と排出権取引のような市場化がありますが、いずれも環境以外に使われる資源を環境に振り向けるものなので、社会全体の消費が増えることはありません。

最大の環境問題である(と政府が考えている)地球温暖化を防止するためには、太陽光発電などのエコ技術革新が必要ですが、これも化石エネルギーよりつねに割高なので、その利用を促進するには税制や補助金によって他の部門の消費を振り向けなければならない。したがってエコ部門+非エコ部門のGDPは、課税などの負担による死荷重でマイナスになるでしょう。政府の推定でも、温暖化ガスの90年比25%削減という「鳩山イニシアティブ」を実施したら、2020年までにGDPは3.2%減少します。

しかしGDPが減少しても、人々がGDPより環境の改善を好むなら、社会的厚生は増加する可能性があります。この答は、現在のGDP減少と将来の地球環境の改善についての割引率に依存しますが、3~5%程度の常識的な割引率を想定すると、IPCCの推定が正しいとしても温暖化対策は社会的損失になります。

要するにエコによってGDPは減少し、人々はそれを望んでもいないのです。それが多くの国民の支持を得ているのは、誰もが自分はその恩恵にあずかるが、コストは他人が負担すると思っているからです。たしかに税金で環境対策を行なえば、その負担は目に見えないので、みんなが得をするようにみえますが、そのコストはのちの世代に転嫁されるのです。まだこの世にいない彼らは、自分が求めてもいない環境のコストを負担させられることを喜ぶでしょうか。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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