ガンジーの遺産 - 池田信夫

2010年01月30日 11:49

鳩山首相の施政方針演説を読んでみました。率直にいって、作文としても出来が悪い。「いのちを、守りたい」という冒頭の文句は、監修した平田オリザ氏の趣味かもしれないが、演出過剰でちっとも心に響かない。中身が単なるバラマキ福祉にすぎないからです。特に引っかかるのは、冒頭でガンジーの「7つの社会的大罪」を引用している一節です:

  • 理念なき政治

  • 労働なき富
  • 良心なき快楽
  • 人格なき教育
  • 道徳なき商業
  • 人間性なき科学
  • 犠牲なき宗教

これを受けて首相は「二十世紀の物質的な豊かさを支えてきた経済が、本当の意味で人を豊かにし、幸せをもたらしてきたのか。資本主義社会を維持しつつ、行き過ぎた『道徳なき商業』、『労働なき富』を、どのように制御していくべきなのか」と格調高くうたい上げるのですが、芝居としてはクサイといわざるをえない。

今の日本の最大の問題が「道徳なき商業」を制御してゆくことだと首相が考えているとすれば、問題はかなり深刻です。かつてNYタイムズに掲載された論文で世界から批判を浴びた「市場原理主義」批判こそ出てこないものの、「人間のための経済」とか「新しい公共」などのフレーズには、市場経済をきらう彼の気分がよく出ています。

ガンジーはインドの独立を指揮した偉大な指導者ですが、彼の後継者であるネルーの指導した国民会議派は「道徳なき商業」を否定して社会主義をとり、インド経済は半世紀にわたって停滞と貧困に苦しみました。最近ようやくインドが新興国として高い成長率をみせるようになったのは、国民会議派に代わって政権をとった人民党などが自由経済を導入してITなどに重点を置いたためです。

首相は、これから日本をガンジーやネルーのような社会主義の道に引きずり込もうとしているのでしょうか。毎月1500万円のお小遣いにも気づかない人にとっては、商業より道徳のほうが大事なのでしょうが、今の日本の最大の問題は商業が疲弊して経済が衰退していることです。首相の「労働なき富」も、もとをたどればブリジストンタイヤの「商業」によって築かれたものであることをお忘れなく。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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