日本企業という「相撲部屋」 - 池田信夫

池田 信夫

貴乃花親方が相撲協会の理事に選ばれたというニュースは、スポーツ団体の人事にしては異例に大きく報じられました。私もふだんはスポーツには興味がないのですが、このニュースには興味をもちました。というのは、相撲協会は日本社会の「相撲部屋」体質の象徴だからです。


私がかつて取材した対象のうち、自分たちの身内の隠語を説明抜きで使う団体が二つありました。宮内庁と相撲協会です。彼らは外の世界を知らず、それでいいと思っている。しかも身内の結束はきわめて固く、些細な裏切りも許さない。特に外に対して身内の悪口をいうものは「村八分」にされる――こう書くと、日本の会社とよく似ていることに気づくでしょう。今回のニュースがサラリーマン記者の共感を呼んだのも、組織内で組織に逆らうということが、いかに大変かを彼らが知っているからだと思います。

しかも日本でもっとも古い封建的な組織と思われていた相撲協会で、こういう「反乱」が成功したのは驚きです。相撲協会の理事は、建前上は親方の互選ということになっていますが、選挙では投票箱の前に「監視」がつき、誰が誰に投票したかわかるようになっていたそうです。今回も貴乃花親方が立候補したとき、「絶対に当選させない」という親方がいて、文部科学省の指導で秘密投票になりました。その結果、ほかの「一門」から貴乃花親方に票が流れて、まさかの当選になったようです。

建前は自由投票だが、実際には一門のボスに投票するよう圧力をかけ、それに背いた者は業界から追放する。徒弟修業で長い期間をかけて出世するため厳格な年功序列があり、いかに実力があっても若い親方は理事になれない。その結果、不祥事が起こっても誰も責任を追及されず、組織内の平和は保たれるが、組織の社会的信用は失墜する――こういう特徴は長期的関係によって維持される組織に多かれ少なかれあるものですが、相撲部屋にはそういう「日本的組織」の最古の類型が今日まで残っています。

その秩序が壊れたのは、不祥事が相次いで相撲の人気が落ち、力士を志望する若者も激減して、このままでは自分たちの生活基盤が危うくなると一部の親方が考え始めたからでしょう。貴乃花親方が具体的にどういう改革をめざしているのか、いま一つよくわかりませんが、相撲部屋体質を打破しただけでも彼の出馬の意味はあったと思います。日本の企業も貴乃花親方に学んで、年功序列の人事体系をやめて役員を実力主義で選んではどうでしょうか。日本経済の立て直しは、そこから始まるような気がします。

コメント

  1. bobby2009 より:

    上記の記事を読んでいて、更に想い出されたのが小沢氏の小沢チルドレンに対する管理です。

    首相が小沢氏に「大臣補佐官に専門知識のある1年生を起用したい」と言うと、小沢氏は「それはいけない。専門知識があるかないかでなく、党内秩序の問題だ」と断ったという。

    小沢民氏が目指すのも民主党の相撲部屋化のようです。

  2. sil より:

    日本社会がどうあるべきはともかく、相撲は閉鎖的な環境でいいんじゃないですかね。もともと神事だし、純粋なスポーツというよりプロレスに近いですよね。横綱を頂点としたピラミッドがあって、たまに格下の関取が白星をあげたりするけど、最後は予定調和的に横綱が優勝、っていうのが日本人の好きな相撲ですよ。だから八百長なんていう批判事態がナンセンス。

    貴乃花親方的な公明正大に、純粋なスポーツとしての改革路線って、結局は大相撲の魅力をそこなうんではないでしょうか。

    問題は大相撲が国技として優遇されていることですよね。開き直って公益法人の指定を取り消され、それで回る金でできる範囲でやればいいんですよ。親方が何億も儲ける必要なし。

    これもよかれと思って投入された国費が、あるべき姿をゆがめてしまった一例なんじゃないでしょうか。

  3. jij999 より:

    >相撲は閉鎖的な環境でいいんじゃないですかね。もともと神事だし

    相撲を見ている日本人(江戸時代~)がどれだけ「神事」を認識しているのか???神道と何の関係もないNHKがここまでの人気にしたのですよ???

    私は相撲に興味はありませんが。

  4. megumama より:

    相撲も日本的経営も元々は農耕民族の「輪」を重んじる教えがベースにあると思います。(つまり個は犠牲になることが美徳とされる?)

    農民は情報がなかったので飢餓を体験することでしか反乱を起しようがなかったのでしょうが

    情報化社会では様々な情報が氾濫するのである意味情報を与えないまま個を押さえつけるだけの社会は成り立たなくなっています。

    そういう意味でも宗教にありがちな「犠牲と感謝」の精神は今の日本では育ちにくいかも知れません。

    ただ、違う角度から見れば人々が変革を求めている今の時代はかつての明治維新のような若い力が世の中を変えていくチャンスかも知れないと考えます。(相撲界にとっては明治維新のような衝撃なのでは?)

    そういう意味では最近若者を中心に一つの動きになっている社会起業家などが育つ土壌ができたのでは?と思います。
    ただ、社会起業家の土壌にも農耕民族のDNAが入っているのかアメリカ型と日本型の違いが取りざたされているようです。

    日本人の素晴らしい面は残しつつ経済面と精神性が両立できる新しい日本国を築き上げて行きたいものです。