ライブドア事件の本質 ―中川信博

中川 信博

前回のエントリーライブドア事件でアニマルスピリッツは潰えたのかで池田先生と山口さんのライブドア事件で日本の起業意欲がそがれたとの議論に疑問を呈したわけでありますが、賛否をコメントで頂戴して気が付いたのですが、私が池田先生のエントリーの引用と山口さんのエントリーの引用を同列に取り上げたことが議論に混乱が生じたようなので議論を整理してみました。


池田先生は投資行動全体としての影響を論じられたので、私の議論へ

「アニマル・スピリッツ」というケインズの言葉は、それとはまったく違う文脈の概念であり、こういう使い方をするのは、話を混乱させるだけ。」

と指摘されましたが、これはその通りだと思う。私はむしろ山口さんの

「アメリカは無条件では無いにしてもGoogleを許容する社会土壌があるのは確か。一方、翻って日本は?「ホリエモン」事件が全てを物語っているのでは?」

という日本のITイノベーションの低迷をライブドア事件に象徴される公権行使の影響で論じていることに強い「疑問」をもっているのである。これはおそらく池尾先生の

「ほんとうにそうなのか?という疑問」については、強く共有する。

というコメントでお分かりいただけると思う。では私がライブドア事件をどう考えているのかを説明したいと思う。

1990年公開されたプリティウーマンという映画があったが、主人公のエドワード・ルイス(リチャード・ギア)のビジネスはのっとり屋だった。1990年代といえば冷戦とともに工業化時代が終わるのだが、エドワードのビジネスは債権化ビジネスを象徴している。カジノで言えば賭けに勝ち続けているプレイヤーのようだ。しかしこのビジネスモデルで彼等は巨額を儲けたが何も創造はしなかった。カジノの優秀なプレイヤーだったことは確かだろう。その後、これらのビジネスを擁護するため、情報ハイウエイ構想と金融ビジネスはクリントン政権下でアメリカの国策となったのである。

情報化時代が到来して彼等は情報通信を駆使して常勝プレイヤーとなった。巨大企業を買収し合法ぎりぎりの会計手法で時価を上げゲインを得る。また起業して株式公開してゲインを得る。さらにその起業家に投資をしてゲインを得ると様々な手法を開発したのである。情報化経済といえるこれらモデルだが、一方ではエンロンを筆頭にしてイカサマも横行したのである。1990年から2000年初頭まで彼等は政府のお墨付きでプレイしたリベラリストの既得権益者ではないかと考えている。当然カジノのオーナーが代われば彼等は退場するしかない。

しかしその中でイノベーションの萌芽があった。1998年に設立されたグーグルである。グーグルは情報化時代初期のIT企業とはまったく違うと言える。カジノで例えれば、ギャンブルで勝つために情報通信を駆使したのではなく、新しい遊び方を提案したのではないかと考えている。多くのオタクの支持を得てその遊びはたくさんのプレイヤーをカジノに呼ぶことになったのである。賭けで勝つのではなく新しい賭けを創ったのである。情報化経済が情報経済に進化した瞬間だ。

工業化時代のビジネスモデルを情報通信で武装したプレイヤーは、一方で新しい金融証券を開発して賭けに勝ち続けることになるが、もう一方で米国市場における2003年のSOX法規制を予見して、新たなカジノを求めたのが年次改革要望書による日本市場開放であったと考える。彼等は新たなカジノで賭けをはじめたが、カジノのルールで自らがプレイできず協力者を得た。その協力者が村上氏であり堀江氏であったと考えている。カジノで賭けて儲けることは何も悪いことではないが、ルールを破れば退場しなければならないのは当然だと思う。村上氏および堀江氏への公権行使とその度合いが正当であったかどうかは私には評価できないが、プレイヤーの不正を取り締まることはエンロンの例の通り悪いことではないと考える。

であるから山口さんの

「アメリカは無条件では無いにしてもGoogleを許容する社会土壌があるのは確か。一方、翻って日本は?「ホリエモン」事件が全てを物語っているのでは?」

というのは誤解ではないかと思う。日本にも新しい遊びを受け入れる土壌はあるが、日本にはプレイヤーしかおらず新しい遊びを提案するオタクがいないのである。もしくは提案できる技術オタクとプレイヤーを協業分業させる土壌がないのではないだろうか。ビル・ゲイツだってはじめはハッカーだったからだ。

コメント

  1. natgeolakeforest より:

    >>しかしこのビジネスモデルで彼等は巨額を儲けたが何も創造はしなかった

    本当にそうなのかなー?っという思いがします。庶民に受けそうなステイトメントとは思いますが。

    このビジネスモデルって何を指しているのか、、債券化?金融資本主義?ファンドビジネス一般?

    プリティウーマンのケースでは、Corporate Reorganization が暗示されていますが、Corporate Reorganization は、往々にして、しがらみのない、ガチガチに利己的で、貪欲な金融資本主義者が関与したほうがスムースに行くという認識を、私は持っているのですが、、、

    結果、ROA (Profit/SalesxSales/Asset)がトータルで改善すれば良いのであって、、、勿論、成功例もあれば失敗例もあるとは思いますが、何も創造しないとは、強いバイアスによる思い込みではという印象を受けました。

  2. bobby2009 より:

    中川様、

    >ルールを破れば退場しなければならないのは当然

    建前論としてはまったくその通りです。しかしルールがゴムのように伸び縮みする国の場合にはどうお考えになりますか。池田氏も指摘するように、日本の法律は灰色(白か黒かは検察が恣意的に判断できるゾーン)ゾーンがあり、ゴムをどこまで伸ばせるかを、世論を見ながら検察が判断できるとしたら、投資家や起業家はどう考えるでしょう。この事から日本が、既得権者に挑戦する投資家や起業家にとって、高リスク国である事を強く印象付けたのではないでしょうか。

    石水

  3. bobby2009 より:

    中川様、

    >私的に判断すれば極めてプロテスタンティズムだといえる。

    堀江氏に対する私見を述べます。逮捕前の彼の著書は、「勝者の驕り」を割り引くべきです。堀江氏の事件は、未熟な若造が無謀にも大きな既得権業界へ挑戦し、出る杭を打たれたと考えています。逮捕前の仕事への姿勢は、プロテスタンティズムというよりも、幼年期の事業化が事業という「玩具」に寝食を忘れて熱中していただけだと考えます。彼の事業のビジネスモデルが解り難かったのは、長期的な事業を試行錯誤していたからでしょう。孫氏が80年に起業してから、Yahoo! BBという社会的な価値創造を行う事業に到達するまで、20年を要しています。堀江氏は逮捕前から宇宙産業に傾倒しており、ライブドアと和解して全財産を渡したのも、その為の合理的な判断といえます。彼の進める宇宙産業が実になれば、社会的に大きな価値創造といえます。この先、彼が何をなすか、事業化としての彼の評価を下すのは、まだ早いといえます。

  4. agora より:

    何をいっているのか、さっぱりわからない。年次改革報告書がどうとかいう陰謀論は、どういう根拠で書いているのか。プロテスタンティズム云々の意味不明の部分は削除しました。これ以上でたらめな投稿を続けるようなら、アカウントを削除します。

  5. agora より:

    誤解をしている人がいるようですが、アゴラの編集権は(株)アゴラブックスにあります。投稿を採用するか否かも管理者の裁量で、不適切な表現は削除します。投稿の内容に問題がなければ、自動的に投稿できるアカウントを差し上げますが、中川さんの場合はイエローカードです。