食糧自給率問題はもっと現実的に考えよう -大西宏

2010年03月30日 10:13

 食糧自給率を語るときに、議論が抽象的なものが多いことや次元の異なる問題が混じり合っていることが多いことが気になります。食糧自給率をなんらかの政策で意図的に上げるか市場に任せるかは国民の選択ですが、議論をはじめる前に、具体的に自給率を高めるにはどうすればいいのでしょうか。

農業の生産性を上げることでしょうか。もちろん日本の農業の生産性が低く、農業の生産性をあげれば、ある程度は自給率が上がるかもしれません。あるいは、できるだけ国産のものを食べようという運動をすることでしょうか。しかしいずれも限界は見えています。それでカロリーベースの食糧自給率があがるかというと怪しいですね。上がったとしても知れています。


 なぜでしょうか。第一は、ブランド化できた食糧以外は、市場価格差がある限り輸入を止めることはできないからです。価格差のあるものはすべてより高い関税をかけるか、補償によって価格差を埋めることになります。そのコストを誰が負うのでしょう。少子高齢化で社会コストが上がっていくなかで、さらに食糧の価格差を埋める補償を政府が行い続けるとでもいうのでしょうか。

国産の食品を買おうと言っても、加工食品の材料まで目を通している人は少なく、まして外食では分かりません。まかり間違っても、安いからと言って、マクドナルドも、すき家も、吉野家も利用してはいけません。そういった企業はわかりますが、実際にはわからないというものが多いのが現実です。

第二点目が最大の盲点ですが、カロリーベースでの議論には重大な欠点があります。日本の金額ベースでの自給率はたしか60%を超えていたと思いますが、なぜかそれがカロリーベースだと40%程度になってしまうのです。
そのもっとも大きな原因は飼料です。牛、豚、鶏、玉子、牛乳などの畜産物は生産するためには飼料が必要です。今はそのほとんどを輸入に頼っています。国産化するとコストが高くついて、ただでさえ利益のでない畜産業はなりたたなくなるからです。

「牛乳は国産だ」というコマーシャルがありますね。では牛乳は自給率が100%でしょうか。違います。国産の牛乳のカロリーベースの自給率は11%が正解です。玉子もほとんどが国内で生産されています。では玉子をたくさん食べれば自給率があがるのでしょうか。プレーンオムレツをつくってみましょう。そのカロリーベースでの自給率はいくらぐらいだと思いますか。なんと、なんと9%です。馬鹿馬鹿しいと思いませんか。

そんなジョークみたいな食品別の自給率を出してくれるサイトがあります。食糧自給率を上げるための広報のサイト「けいさん こくさん」です。検索すればでてきます。

飼料を国産化すること、それはやろうと思えばできるでしょう。カロリーベースの自給率50%など簡単です。国産のものを食べようと訴える必要ありません。生産の潜在能力があるかですが、農地は余っているのです。そこで生産すればいいだけです。

減反政策によって休耕田が増え、確か水田の1割を超えていたと思いますが、さらに農家の高齢化などによる耕作放置地もあります。今は、休耕田は空き地になっているか、花を植えるとか、蕎麦の栽培などに利用されているとかですが、そこで飼料に適した安いトウモロコシや米を生産すればカロリーベースでも食糧自給率を上げることができます。ただし、食糧の高騰は避けられません。

もっと言えば、このカロリーベースの自給率の分母がなにだと思われますか。現在の消費量です。飽食の時代で、メタボが問題になり、さらに家庭も含め廃棄される食糧が多い現状の消費量が分母だということです。水増しですね。こうやって冷静に見てみると、カロリーベースの食糧自給率というのは、なにか胡散臭いものを感じませんか。

では食糧の安全保障の問題ですが、食糧が入ってこない状態に備えようという視点もありますね。それは戦争によるものの可能性は小さく、むしろ新興国の経済成長などによって食糧の不足、需給の逼迫が起こってくる場合でしょう。よしんば、中台の紛争が起こったとして、その際にまず日本にとって問題になるのは、むしろこの海域を通ってタンカーが運んでくる石油です。その際でも、すべての食糧のルートがなくなるわけではなく、実際に起こってくるのは、食糧が消えるのではなく、食糧の高騰です。
高騰すれば、日本で生産しても採算が合ってくるので、日本での生産が始まります。さらに慎重に備えるとすれば、高騰したときにでも、すぐに効率的な生産が行える農業基盤づくりのほうが重要ではないかということです。そのためには、農業の法人化などの農業の近代化を進めておくことでしょう。零細農家では対応できません。

さらに混同してはいけない問題があります。食品としての安心、安全の問題と食糧自給率の問題を直結して考える気持ちは理解できたとしても、次元の違う問題です。米国での牛肉のBSE問題、さらに餃子への毒物混入事件や、農地への工業水の浸透などによって、海外からの食糧輸入への不安を持つ人が多いのですが、それは自給率とは切り離して考えたほうがいいのです。
安心や安全を求めるのなら、安全基準をどのように置くか、また食品のトレーサビリティなどの強化を行うことです。海外で日本の企業がJAS法に基づいて、安心・安全な食品を生産しているところもあります。海外での生産には、地質調査、水質調査を義務づけるというのも一手かも知れません。実際自主的にそうしている企業もあります。

また食糧自給率問題だけに焦点をあてて論じると、日本は貿易立国だという根本が抜け落ちてしまいます。下手に保護主義的な方向に持って行くと、国際間の軋轢が起こり、ますます日本は孤立する方向に向かってしまいます。
日本は自由貿易を促進したほうが有利だということは言うまでもないことですが、これまでは、その障害となってきたのが農業問題です。農家を守るために保護主義的な政策がとられてきたのですが、それは国益にかなっていません。農家への個別補償も、もともとは、各国とのFTAをさらに広げるために、農業からの反対を抑える、また価格差を埋め、農業への打撃を減らす政策であったはずですが、なにか今は変な方向に行ってしまっているのが気になります。
忘れてならないのは、日本は農業に手厚い政策をとってきたわけですが、むしろ農業の弱体化を促す結果となってしまったということです。本来行うべきは、いかに市場の競争に生き残る農業を育てるかであって、お金を補償することではないはずです。
(株式会社コア・コンセプト研究所 大西 宏)

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