田母神閣下の内弁慶的虚構 - 北村隆司

2010年04月22日 10:00

「田母神俊雄前航空幕僚長、ニューヨーク講演がいよいよ実施となります。政界、メディアなど総掛かりの評判のなかでも、貫き通した高き志。その主張を日本国内だけでなく世界に発信するべく、いよいよ世界の中心ニューヨークでの講演会の開催です。愛国の情、国防の新年、そして日本の歴史や伝統への尊崇の心。世界の重鎮が集うユニバーシティクラブで、あなたもその熱き想いを共有してみませんか。」

田母神俊雄前航空幕僚長のHPに載った、この講演会への勧誘文を読んで、田母神氏の信条を直接聞く良い機会だと考えた私の友人は、この講演会に出席した後で次の様な感想文を送ってくれました。


「NY開催にもかかわらず、出席者には外国人はいませんでした。近畿日本ツーリストのウェブサイトで漢字の名前を登録しないと参加申込みできない形式となっていましたので、アメリカ人が参加することはそもそも想定外であったと思います。実際に、当日の講演はすべて日本語で、英語は一切ありませんでした。

講演会の最後に挨拶をしたゲストスピーカーは、当初は西村眞吾 元・衆議院議員の予定だったのが、Visaの問題(彼は弁護士法違反で有罪判決を受けていますので、それが理由だと思います)で来られなくなったとのことで、赤池誠章 元・衆議院議員(山梨)、三宅博 元・八尾市市議会議員(日本国憲法には、日本は悪い国だと書いてあるなどと言っていました。実際には、そのようなことは書いてありませんが。)と幸福実現党 元・党首の饗庭直道 氏が来ていました。スポンサーとして幸福実現党がついているようです。

講演会ですが、司会の簡単なスピーチの後、まず西村 元・議員のビデオレターから始まりました。『田母神閣下』と呼んでいたのがとても印象的でした。

次に、田母神氏の講演でしたが、一言でいうと、直接には関連しないことをたくさんつなげて、ひたすらしゃべり続ける感じでした。おそらくスピーチが上手な方なのだと思います。

内容は、日本はアジアの国を侵略していない、教育勅語の復活による日本人のモラルの復活、軍事力を背景にした外交交渉の必要性、核武装論(日本は唯一の被爆国だからこそ、核武装する権利があると言うべきだ)、自民党政権批判(公明党と組んだのは麻薬みたいなものだった。)、現代における情報戦争(南京大虐殺も情報戦の一つ。無抵抗の民間人を殺すのが虐殺であり、軍隊が打ち合って殺すのは虐殺ではない。)、保守派も黙っていてはいけない(左翼の特権であったデモ行進を右翼もやったほうが良いかもしれない)、といった話でした。

質疑応答(2問しか時間がなかった)では、幸福実現党の愛媛代表の方が『日本が中国の属国化していくスピード』を聞くなどしていました。

私の感想ですが、まず司会が『世界の中心であるNYから祖国を見る』と言ったにもかかわらず、世界から日本がどう見られているかの視点がまったくなかったのでとても残念でした。それに、そもそも『戦後に欧米の価値観が入ってきて日本がダメになった』というのであれば、NYで講演などしなければ良いのにと思わずにはいられませんでした。

それから、複数の意見がありうるときに、一方の見解のみを断定的に言い切りますので、その見解の人にはとても気持ち良く聞こえるのだと思います(例えば『南京大虐殺は嘘』と言い切ります。)し、『○○さんがこういっているので、南京大虐殺は嘘』というように口頭で根拠も示します。ただ、その○○さんがどういう根拠で言っているのかはその場では検証しようがありません。

説明が明らかに足りないと思える部分もいくつかありました。例えば、戦後のGHQによる公職追放により、大学の学長も追放されたが、その空いたポストに左翼がつき、それにより日本の教育がダメになったといっていました。ただ、アメリカは対ソ連との関係で、左翼を要職に据えることについて何らメリットがなかったはずです。なぜ、GHQ(アメリカ)が主導した公職追放により左翼が要職につくようになったのかの説明はありませんでした。それから、日本人が自信を失っている最大の理由は歴史認識であるということを強調されていましたが、そうであれば、日本人が自信を取り戻すために、アメリカの地で何をすべきかを語って欲しいと思いましたが、その点の話は全くありませんでした。」

友人の手紙を読んで、田母神氏は日本では欧米の価値観を声高に非難しながら、米国に来ても米国人との対決を避ける意外な内弁慶で、「愛国の情、国防の新年、そして日本の歴史や伝統への尊崇の心」まで商売にして仕舞うしたたかな「武士の商法」の持ち主である事を知りました。

「貫き通した高き志。その主張を日本国内だけでなく世界に発信するべく、いよいよ世界の中心ニューヨークでの講演会の開催です。」と言いながら、外国人には閉ざされた講演会。正に羊頭狗肉の典型です。

空幕長を解任された後の田母神氏の言動を観察しますと、その主張の良し悪し以前の問題として、同氏の人物識見の低劣さが目立ちます。この様な人物が空幕長の地位にまで上り詰められる日本の官僚人事制度は、何が何でも見直す必要があると痛感しました。

田母神氏は「たちあがれ日本」の目玉候補の一人だとの事。これが本当であるとしたら、自分の主張を一貫して曲げない硬骨振りに、敵ながらあっぱれだと思っていた私の平沼党首への畏敬の念も、主張の全く異なる与謝野氏と手を組んだ事実などと併せて考えますと、変更しなければなりますまい。

               ニューヨークにて      北村隆司

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