イスラエルとハンガリーの「相性」

人間同士、夫婦同士にも相性の良し悪しがある。国との関係でも相性の良し悪しはあるだろうか。同盟国、友邦国、血で繋がった同盟(血盟)といった表現があるから、国同士の関係にも相性があるはずだ。

▲ハンガリーを訪問するイスラエルのネタニヤフ首相(ウィキぺディアから)

▲ハンガリーを訪問するイスラエルのネタニヤフ首相(ウィキぺディアから)

イスラエルのネタニヤフ首相が18日、ハンガリーの首都ブタペストを訪問し、オルバン首相と首脳会談をする。それを聞いて、「イスラエルの首相がハンガリーを訪問するとはね」という思いが湧いてきた。中東のイスラエルと“欧州連合(EU)の異端児”といわれるハンガリーの組み合わせがピンとこないからだ。

ネタニヤフ首相は16日、パリを訪問し、今売り出し中のエマニュエル・マクロン新大統領と会談したばかりだ。マクロン大統領はネタニヤフ首相にイスラエルとパレスチナ2国家共存論に基づく和平案の受け入れを求めたという。それに対し、ネタニヤフ首相は余り深入りせずに返答をぼかしたという。

話はイスラエル首相のブタペスト訪問だ。イスラエル首相がブタペストを訪問する以上、両国の共通点があるはずだ。欧州諸国はガザ地区問題や入植地拡大政策でイスラエルに対し批判的で、その自制を促しているが、ハンガリーのオルバン政権は批判していない。難民受け入れ問題ではオルバン首相はイスラム教難民・移民の受け入れを拒否するなど、その政策はイスラエルに評価されている。

それでは、両国の対立点はどうか。ある。「反ユダヤ主義」だ。ハンガリー国内には反ユダヤ主義傾向が常に強い。歴史を振り返ると、ナチス・ドイツ時代、ヒトラー政権のユダヤ人虐殺を最も手助けした国は欧州ではハンガリーだった。何十万人ものユダヤ人がハンガリーからドイツの強制収容所に送られ、そこで犠牲となっている。

スウェーデン人外交官ラウル・ワレンバーク(1912~47年)をご存じだろう。同外交官は駐在先のハンガリーで約10万人のユダヤ人たちにスウェーデンの保護証書を発行して救ったユダヤ人の英雄だ(同外交官はナチス軍の敗北後、ハンガリーに侵入してきたソ連軍によって拉致され、ソ連の刑務所で射殺された)。ナチス・ドイツにとって、ハンガリーは当時、重要なパートナーだったわけだ。

最近では、ハンガリーのブタペスト出身のユダヤ系の世界的な米投資家、ジョージ・ソロス氏が1991年、冷戦終焉直後、故郷のブタペストに創設した大学、中央ヨーロッパ大学(CEU)について、オルバン政権は厳しく対応し、その閉鎖すら要求する勢いだ。すなわち、ハンガリーには反ユダヤ主義がくすぶり続けているわけだ。世界ユダヤ協会(WJC)の第14回総会がブタペストで開催された時(2013年5月5日)、ハンガリーの反ユダヤ主義に批判の声が出たことがあった(「WJCの批判とハンガリーの反論」2013年5月6日参考)。

それでは、なぜネタニヤフ首相は反ユダヤ主義が強いハンガリーをわざわざ訪問するのだろうか。オーストリア日刊紙プレッセ(13日付)によると、「オルバン首相自身は国内の反ユダヤ主義の対策に努力していること、ソロス氏の大学の件でもイスラエル側は入植地問題やパレスチナ問題でイスラエル政府に批判的なソロス氏を好ましく考えていないこと」などを指摘し、ハンガリーの反ユダヤ主義はナタニエフ首相のブタペスト訪問の障害とはならないという。

イスラエルはパレスチナ問題では国際社会から批判を受けることが多い。それだけに、イスラエルの入植地政策に理解を示すEU加盟国ハンガリーは大切な国だ。一方、EUのブリュッセルから異端児と酷評されるハンガリーとしては、中東のイスラエルからゲストを迎えることはハンガリー外交の威信を高めるものだ。両国の利害は案外近い。その上、ネタニヤフ首相とオルバン首相の相性もけっしてかけ離れてはいないだろう。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年7月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。