Yahoo! ジャパン宮坂社長、経営判断の根拠とは --- 岡本 裕明

アゴラ

宮坂学、ヤフー社長。爆速経営として社長就任以来、数々の改革をまさに爆速で進め、新生ヤフーを築くために尽力しています。その宮坂社長が3月に発表したイーモバイルのソフトバンクからの3240億円強の買収は大きな議論を呼びました。そして、今般、その買収を中止すると発表しました。爆走する宮坂ラリーカーが道を間違えたことに気づき、タイムが遅れないうちに分かれ道に引き戻すというのがイメージでしょうか?


イーモバイルの買収そのものは個人的には悪くないと思っていました。それは携帯が三社体制から格安スマホが乱立することが予想される中、ヤフーがその主導権を握るというシナリオが描けるからであります。一方、アナリストを中心に携帯ほど儲からないビジネスにヤフーが参入することは全社的な利益率の低下につながるとする見方が強く、株価も大きく売られてきたのであります。

もう一点はイーモバイルの買収がやや、唐突であったことも否めません。43%の株主であるソフトバンクとの売買ですから関連会社間取引。そこには別の思惑があったわけでそのもっともらしい理由はソフトバンクがスプリント買収後、Tモバイルの買収へと進む中で、資金負担をある程度軽くしたかったとも言われています。イーモバイル売却に伴う資金移動は総額で4500億円とも言われTモバイル買収予定資金の4分の1はカバーできることになったはずでした。

さて、宮坂社長がなぜ、買収を止めたか、この真相はまだ明らかにされていません。考えられる原因としてヤフーの株価がこれ以上下がることでソフトバンク全体の担保価値が下がることを嫌気したかもしれません。9兆円を超える有利子負債を抱えるソフトバンクにとって貸し手の銀行の発言力は当然強まっているとみるべきでしょう。銀行経営者は担保価値の遺棄は非常に嫌います。ヤフーが極めて高り利益率を誇る優等生であったことを考えれば株価が下がり、利益率の低いイーモバイルを同社に抱かせるソフトバンクの戦略は見直しを迫られたと考えればすっきりしそうです。

宮坂社長は就任当時のインタビューでヤフーが持つ150のサービスを小回りの利く船に例え、それぞれの船長が目標に向かって進んだ結果、100勝50敗の結果を出してくれればよい、という趣旨のことを述べています。100勝50敗は勝率6割6分です。こんな勝率は通常はあり得ません。野球殿堂入りを果たす優秀なバッターでも生涯通じて3割を打つのは難しいし、経営で例えるならユニクロの柳井正氏は1勝9敗(ご本人の著書から)です。つまり、勝率1割。アメリカのエンジェル投資家が投資した案件からリターンが帰ってくる確率も2割か3割。そのうち、爆笑できるほどの勝ちが含まれているから賢いエンジェル投資家は損をしないとも言われています。

日本は勝率にこだわるタイプであります。宮坂社長もその典型のように見えます。今回、ご本にとって大勝負からあっさり手を引いたのは勝率6割を目指す経営の中で手持ちの駒から確実なヒットを飛ばしていく戦略を踏襲することかもしれません。少なくとも今回のこの決定は株価には好影響があるとみています。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年5月20日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。