経済学の教科書で「家賃統制」の話がよく紹介されます。どこの都市だったか忘れましたが、借家の家賃があまりにも高くて「こんな家賃じゃ借りることができない!」と叫ぶ人たちの声を反映し、行政が家賃の上限を定めました。
その結果、「安い家賃収入しか得られないなら借家にするのを止めよう」という物件所有者たちが増え、借家そのものの数が激減したため借家を求める人たちは以前よりもっと困ってしまいました。
得をしたのは、既に借家を借りていた”相応のお金持ち”たち。低い家賃で既得権を享受できたとか…。
今の日本には利息制限法があります。
金利の上限を決めることは家賃の上限を決めることと経済学的には同じです。価格(家賃や金利)を需要供給曲線で定めるのではなく、需要曲線と供給曲線の交点よりも下の価格を強制しているのです。結果として、供給不足と需要過多が発生します。
「高金利を認めると、到底返済できない金利で借金をする人が増えてしまう。彼らの保護のために金利を制限しなければならない」というのが金利制限の最大の根拠でしょう。
しかし、借金を延滞する人は、たとえ金利が低くとも延滞してしまうものなのです。金融リテラシー不足もあるでしょうし、事業をやっている人の場合は事業見通しが甘すぎることもあるのでしょう。最初は低利融資を受けていたのに融資残高が増えて新たな借入ができなくなり、消費者金融から高利でお金を借りてしまった人たちは実にたくさんいました。
借金に関する最大の問題は、貸し手と借り手の間にある「情報の非対称性」なのです。借り手がきちんと返済する性格なのかルーズな性格なのかは、貸し手にはわかりません。
融資を受けたお金を金利以上のパフォーマンスで回すことができる能力を持っているか否かも、貸し手にはわかりません。つまり、借り手側の情報の多くを貸し手が把握することができないために、多くの貸し倒れが発生してしまうのです。
また、多重債務者の中には、ある貸し手への返済のために別の業者から借り入れをする人がたくさんいます。借り手がどのくらいの負債を負っているかはある程度情報共有がなされているようですが、まだまだ透明性は不十分でしょう。
どんな高利貸しであっても、延滞されて無謀な取り立てをするより、きちんと返済してもらった方がはるかに嬉しいしコストもかからずに済みます。
恐喝罪で逮捕でもされたら、回復できないダメージを蒙りますし…。
借金の延滞等を減少させる最も効果的な方法は、金利を制限することではなく「情報の非対称性」をできる限り解消することでしょう。最近は、SNSなどの情報に基づいて融資審査をやるという話を聞いたことがありますが、これも借り手の情報を透明化するためのひとつの方策でしょう。
また、忘れてはならないのは「金融リテラシー教育」の徹底です。
振り込め詐欺のような特殊詐欺の防止のため、警察等はさまざまな啓発活動を行っています。同じように、無謀な借り入れを防ぐための啓発活動があってもいいのではないでしょうか?「ご利用は計画的に」という漠然としたメッセージでは何の意味もありません。
「借金破綻は犯罪被害ではないので国家は介入できない」「民民の私的自治に国家は介入できない」というのであれば、金利規制も止めるべきです。
税金で啓蒙活動をしなくとも、資金の貸し手やカード会社、その他金融業者に金利や手数料の明示を求めるだけでなく、「10%の金利で借りたら7年と少しで元金は2倍になります」「リボルビング払いの手数料は15%なので、5年未満で元金は2倍になります」という表示を義務付けることはできるはずです。
金利を規制しても延滞する債務者は減りません。逆に、高金利でもそれ以上のパフォーマンスが実現できる人たちのビジネスチャンスを摘み取ってしまいます。「高金利=悪」というステレオタイプ的な発想から脱却する必要があるのではないでしょうか…。
編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年8月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。