人口構成から考える「終身雇用制度」維持が困難な理由

荘司 雅彦

国立社会保障・人口問題研究所サイトより(編集部)

日本の人口構成を見ると、団塊世代と団塊ジュニア世代が突出し、全体の形状イメージはカクテルを作るシェイカーのような形になっています。よく「人口ピラミッド」と言われますが、日本の人口はもはやピラミッド型ではありません。

ところが、大企業や役所のような組織(特にライン組織)は、ピラミッド組織になっています。頂点に一人の社長がおり、一番下の裾野には入ったばかりの平社員が何百人もいるという具合です。人口構成がピラミッド型であった時代は、 このようなピラミッド型の組織がうまく機能していました。

「30歳くらいに係長になり、35歳くらいで課長になり・・・」 というモデルがありましたが、これは組織内の構成員人数がピラミッド型を前提としたものです。

同期入社した者全員が課長になるためには、より多くの下の世代が入社し、社内の人口構成がピラミッド型になっている必要があるのです。

黙っていても管理職のポストを与える大前提は、部下の数が管理職よりも多いということです。
これは、高度経済成長時代のように、新入社員の数が年々増加したからこそ実現できたのです。

ところが、新入社員の数が減少していけば、管理職の年齢を上げない限り、従来通りの部下の数を維持することはできません。

今まで35歳で課長になれたとすれば、34歳以下の社員の総数が一人の課長の部下の人数枠を確保するくらい存在したということです。下の年齢の人数が少なくなれば、課長になれる年齢を40歳に引き上げるか、課長になれない人たちを増やすしかありません。

日本の総人口は、今やシェイカー型であってピラミッド型ではありません。
会社組織がその縮図だとすれば、若い社員の数が少なく年長者の数が多い組織ということになります。

管理職の年齢を引き上げずに今までの年功序列を維持するには、肩書きだけの係長や課長という肩書きをつくり、実質管理職と肩書管理職の待遇をほぼ同等にする必要があります。
かつては、そのような人事体系をもっていた組織もありました。

私が野村投信に勤務していたとき、男性社員の中で一番員数が多かったのが課長か次長でした。
われわれ平社員は比較的希少な存在だったのです。一つの部に次長や課長が何人もいるという組織でした。しかし、ROE重視の経営が人件費抑制のプレッシャーとなり、そのような歪(いびつ)な人事体系は多くの企業で維持できないでしょう。

となれば、「釣りバカ日誌」のハマちゃんのように”万年平社員”が普通になる時代が来るのかもしれません。給与は年齢給や勤続給部分しか上がらず、実質的に年功賃金制度は崩壊します。

経営サイドとしては、万年平社員を増産するのを避けるため、出世の見込みのなくなった社員の肩叩きを行うでしょう。下手をすると30代前半で肩たたきをされる恐れもあります。もちろん、新たな人生を築くべく、自主的に退職して新天地を目指す人たちも増えるでしょう。

このような状況になれば、会社からスピンアウトした社員のために大きな受け皿が必要になります。
人材の受け皿を大きくして流動化を促進させるためには、以前に書いたように、解雇規制の撤廃・緩和が必須条件となります。

参照拙稿:解雇規制は、実は従業員を苦しめている!

以上のように、日本全体の人口構成が先細りになる以上、マクロ的に見れば終身雇用制度は維持できなくなるのです。

もちろん、業容を拡大しており就職人気が高い例外的な組織は稀に存在するかもしれませんが…。
まずは、人材の受け皿を大きくすることが最優先です。人手不足の今こそ、解雇規制の撤廃・緩和を推進していくべきだと思っています。


編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年9月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。