トランプ米大統領は21日、核実験、ミサイル発射を繰り返し、国連安保理決議に違反する北朝鮮に対し、更なる制裁を決定した大統領令に署名した。
ワシントンからの情報によると、北朝鮮の核・ミサイル開発の資金源を断つ一方、エネルギーや金融、繊維、漁業、情報技術(IT)など幅広い業種で北と関係した個人や団体を制裁対象に指定し、米国内の資産を凍結し、貿易決算などで北と関係した外国金融機関を米金融システムから締め出す、という強硬な内容だ。
当方は欧州駐在の一人の北朝鮮ビジネスマンを知っている。彼はアメリカン・エクスプレスのゴールド・カードの所持者だ。欧州を飛び歩く彼はそのカード一枚で旅費、宿泊代から商談の決算まで片付けていく。米国の対北制裁が完全に実施された暁には、彼はもはやアメリカン・エクスプレスのゴールド・カードを使用できなくなるから、商談ばかりか、日々の生活も大変となるだろう。
特定の国に対する制裁は間接的な「戦争宣言」を意味する。手に武器を握っていないだけだ。北朝鮮の場合、国際社会から久しく孤立し、自給自足の国民経済だから、制裁は他の国のような痛みをもたらさないといわれてきたが、世界の金融界を操る米国が制裁の完全履行に乗り出した場合、北はお手上げ状況となる。
もちろん、中国やロシアが対北国境でさまざまな取引を継続するかもしれないが、中国の王毅外相は、「中国は制裁を完全に実施していく」と明言している。制裁違反をすれば、中国企業も制裁対象となる危険性が出てくるからだ。
イラン問題では2015年7月14日、国連安保常任理事国(米英仏露中)にドイツを加えた6カ国とイランとの間で続けられてきたイラン核協議が合意し、2002年以来13年間に及ぶ核協議に終止符を打ったばかりだ。その結果、イランがその核合意を遵守する限り、制裁は段階的に解除されることになった。
国際社会の対イラン制裁は単にテヘラン指導部だけではなく、一般国民の生活を窮地に陥らせた。その一つはイランの航空機が頻繁に事故を起こし、墜落するケースが挙げられる。最新航空機を購入できないこと、古くなった航空機の部品、メンテナンスが難しい、といった状況が続いてきたからだ。米国の対イラン経済制裁は1979年からスタートしている。核問題に関連した国連の制裁は2006年からだ。対イラン制裁が効果を発揮するまで少なくとも10年の月日が経過しているのだ。
当方の知り合いのイランの女性記者は当時、「国連の制裁の影響でイラン航空はしばしば事故を起こしているのよ。メディアには余り報道されないけれど、飛行機の調子が悪い、といっては途中、緊急着地したりしている」と教えてくれた。だから、テヘランに行く時はトルコ航空を利用すると語っていた(「イラン航空は怖い」2013年7月21日参考)。そして帰国する時は病気の実母のために薬を買って帰るという。テヘランでは医療薬品は貴重品で容易には手に入らないからだ。ちなみに、対イラン制裁の一部が解除された直後、イランはエアバス旅客機114機の購入を発表している。
問題は制裁の強度ではない。金正恩氏がそれを痛みと感じ、核・ミサイル開発を断念するかだ。北は制裁下でも核実験を繰り返し、ミサイルを発射し続けることが考えられる。そして、金正恩氏はある日、その大量破壊兵器を使用したいという誘惑にかられるかもしれない。
繰り返すが、国際社会の制裁にあったイランと独裁国家の北朝鮮では国体が違う。だから、対北制裁が即効果を発揮して、金正恩氏が核・ミサイル開発を即中止するとは考えられないのだ。対北制裁を実施したとしても、国際社会は北の大量破壊兵器の脅威から解放される保証はないのだ。
韓国の文在寅大統領は北に800万ドル相当の人道支援を実施するという。制裁下で最も被害を受ける北の国民、特に、子供、児童だ。だから医療品や食糧の支援は重要だが、実施時期を考えるべきだ。金正恩氏に間違ったシグナルを送るべきではないからだ。
北朝鮮の動向を注意深く監視する必要があるだろう。制裁下の金正恩氏が突然、キレて暴発する危険が排除できないからだ。先述したが、制裁は「戦争宣言」である。北朝鮮との間の戦争は既に始まっているのだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年9月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。