スマートフォン市場は2010年の第二四半期に、対前年比64%の成長を達成したといわれています。なかでもグーグルのOS「Andoroid」を採用したスマートフォンが急激に伸びてきており、同じ期に、前年の9倍近くが売れ、シェアもiPhoneを抜いて、トップblackberryの33%に迫る27%となったようで、トップの座を奪うのも時間の問題のように見えます。
勢いから言っても、競争の主役は、アップルとグーグルですが、まったく異なるビジネス・スタイルやビジネス意図を持つ両陣営の競争は、従来の常識では推し量れない展開となっていくことは間違いありません。。
日本では、グーグルのAndoroid伸長の状況はなかなか実感できません。「Andoroid」OSは、NTTドコモからXPeriaをはじめいくつかの機種が発売されましたが、アップルのiPhoneが強く、BCNのパネル調査によると、家電量販店の8月の販売実績で、iPhone4が携帯機種全体の二ヶ月連続トップとなり、スマートフォン市場では、「iPhone 4」は販売数量の71.1%を占め、2番手の「Xperia」の15.8%を大きく引き離しています。3番手の「IS01」ではわずか3.9%しか売れておらず、アップルの寡占市場の様相です。しかし、グルーバルな市場での動きは早晩日本市場にも影響がでてくるはずです。
アップルの強みは、高いブランドイメージとAPPストアに蓄積された25万のアプリケーションであり、Androidの8万を凌駕していることです。さらにiTunesでの音楽などのコンテンツではさらに差をつけています。
しかし、こういった状況は、先行してきた強みとはいえ、「Andoroid」を採用したスマートフォンのシェアが伸び、iPhoneとの差が広がれば変化してきます。すでにその影響と思われますが、アップルは、アプリケーションの規制を緩和する動きを見せはじめました。
グーグルの強みは、さまざまなレポートではアップルのiOSよりもAndoroidのほうが優れているとされていますが、それよりも、OSを無償で提供していることで多数のメーカーと組んでいることです。
アップル、グーグルともに高収益なビジネスを行っており、営業利益率も2009年でアップルは27.4%、グーグルが35.1%でした。いずれもキャッシュも手元にたっぷり抱え込んでいるわけですが、違いは、アップルにとっては、iPhoneがもっとも稼ぎ頭であり、グーグルは広告からの収益がほとんどで、スマートフォンでは、今のところ利益を求めていないことです。
アップルの収益構造を見ると、直近では、iPhoneとiPadで売上のほぼ半分を占めるようになってきており、この二製品が脅かされると、アップルの経営もいまのようにはいかなくなります。音楽の売上も、アプリの売上も伸びているとはいえ、両方をあわせても10%に満たないというのが現状です。
つまり、アップルはiPhoneとiPadは本業中の本業として死守しなければならないのに比べ、グーグルは、やがてスマートフォンの検索などで広告市場をつくればいいという長期的なスタンスであり、もっとも川上の重要なOSを握りながら、そこからは一切の収益を求めていません。
しかも、グーグルの「Andoroid」には、市場での生き残りをかけたメーカーが集まり、それぞれが開発を行うわけで、グーグルにとっては、それらのメーカーがしのぎを削りながら将来市場を広げてくれるという構図です。WindowsMobileを有償で売っているマイクロソフトと手を組むメリットはメーカになく、すでにこの分野の競争では敗退してきています。
しかもそういったメーカーが、価格競争を展開してくれれば、グーグルは黙っていても、アップルの高収益を支えているiPhoneやiPadの幹を痩せ細らせることも可能になってきます。アップルに潤沢な資金力がなくなれば、将来の広告でも競争も有利です。
そして、スマートフォンの市場、iPadが切り開いたタブレット型PCの市場、さらにアップルが将来戦略として打ち出したインターネットTV市場と、やがてこの戦線が拡大していけば、アップルにとっても厳しい局面がやってくることはいうまでもありません。
ソフトを握るグーグルと、ハードで、多少の収益を犠牲にしても量を売りたいメーカーとの連合軍は、そうやって見ると決してあなどれません。
アップルのプラットフォームにソフトを集積させているのも、アップルの売上の伸びと、高いブランド力がなせる技ですが、いくらブランド力があっても、プレミアム価格が通用する以上の価格差になってくれば、ブランドの優位性は揺らぎます。
こういった競争の構図は、これまでの市場ではあまり例がないのではと思います。しかし、もっと先には、タダほど怖いものはないというグーグル支配の世界がやってくるのかもしれません。
ただ、グローバル市場で敗色が色濃くなりはじめた日本の家電メーカーにとっては、グーグルの存在は夕闇に輝くひとつの光明のかもしれず、どのように、グーグルの「Android」を活用した戦略をとってくるのか注目したいところです。
株式会社コア・コンセプト研究所
大西 宏