日本がUNIDOを脱退する日 --- 長谷川 良

アゴラ

ウィーンに本部を置く国連工業開発機関(UNIDO)の様相がさらに悪化してきた。懸念されていたことだが、最大分担金国の日本と自国の事務局長を抱える中国間の日中衝突だ。ウィーンの国連職員の知人から聞いた話を紹介する。

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▲加盟国から事務局長当選の祝辞を受ける李勇氏(2013年6月24日、撮影 )


「先週、在ウィーン国際機関日本政府代表部の北野充特命全権大使と李勇事務局長が会談したが、そこで北野大使はUNIDOの現状に強く不満を表明し、『UNIDOが本来の使命を履行できないようだと、日本も考えざるを得ない』と述べ、脱退の意思を示唆した」という。

知人は少し興奮しながら、「日本がUNIDOから脱退の可能性を示唆したのは今回が初めてだ」と繰り返し強調した。事実とすれば、大変だ。

そこで、「日本はどうして脱退を考え出したのかね」と聞くと、知人は「UNIDOの腐敗体質、履行能力の欠如などのほか、日本側もUNIDO内のポスト配分で不満があるようだね」という。

加盟国の脱退自体はUNIDOではもはや珍しくない。先進諸国でUNIDOに留まっている国のほうが少数派だ。UNIDOから脱退した国は、カナダ、米国、オーストラリア、ニュージーランド、英国、フランス、オランダ、ポルトガルなどだ。それに脱退予備軍としてスペイン、ギリシャ、イタリア、ベルギーの名前が挙がっている。スペインは今回、日本と同様、脱退の意思をちらつかせている。いずれにしても、日本の脱退は国連関係者にはショックかもしれないが、「日本の脱退は少々遅すぎた」という声が聞かれるのも事実だ。

ちなみに、日本がUNIDO脱退をこれまで控えてきた背景には、国連機関の脱退は日本の願いである国連安保常任理事国入りの障害となること、開発途上国の反発が予想されたことなどの理由があると考えられる。

脱退国の増加でUNIDOの予算は縮小され、機関の運営は難しい。経費の88%は人件費と維持費だ。活動に投入できる予算は残りの12%に過ぎない。換言すれば、UNIDOは生き残るために存在し、開発途上国の開発支援という本来の使命は二の次だ(日本はUNIDO最大の分担金負担国で約19%、約1299万ユーロ。UNIDOは日本、ドイツ、中国の3カ国で支えられている)。

UNIDOの事務局長に中国人の李勇氏が就任して以来、国連外交関係者の間で呟かれてきたことは、UNIDOを舞台にした日本と中国の外交戦だ。中国の反日活動が激化すれば、日本側も分担金の支払遅滞などの外交カードを駆使して中国人事務局長に圧力をかけてくると予想する声も聞かれるほどだ。

日本が脱退でもすれば、UNIDOの存続は難しくなる。そうなれば、UNIDOはニューヨークの国連開発計画(UNDP)に吸収される可能性が高まる。

なお、日本のUNIDO脱退の可能性について、在ウィーン国際機関日本政府代表部のUNIDO担当外交官は当方の電話インタビューに応え、「わが国は現在、厳しい財政状況下にある。国際機関の加盟・脱退問題はそのメリット、デメリットを慎重に分析して決定されなければならない」と説明し、UNIDOの今後の運営を注視していく意向を明らかにしている。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年10月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。