マイナス金利のカラクリとその影響の大きな側面 --- 岡本 裕明

アゴラ

事業家にとって金利がかからないお金を調達できればこれほど嬉しいことはありません。だって、幾らでもいつまで借りていても利息がないのですから。しかし、これでは坊さんの世界です。


私は企業買収資金の調達で一時期最も高い金利で12%のものを借りたことがあります。サラ金ではありません。いわゆるメザニーンローンと称するリスクのある資金調達で当時、この世界では割と当たり前の水準でした。金利が二ケタになるとどうなるかといえば、せいぜい3年のうちに完済、ないし低金利ものに借り換えしないと金利倒れになるという事です。それは逆に急いで事業を形あるものにし、利益を生むことが求められ、ガンガン仕事をしないといけない世界を作るという事です。つまり、逆説的ではありますが、金利が高い方が頑張るのであります。頑張って借金を返済すれば次の余力が生まれ、新たなる経済活動ができるとすればこれはGDPアップにつながります。こう考えれば低金利はほんとうに経済活動にプラスなのか、考えものになってしまいます。

日銀の新規発行の短期国債(3か月もの)の入札で金利が初めてマイナスになりました。日本の国債の流通市場では時たまマイナスはあったのですが、ついに新発ものでマイナスをつけたのです。発行額は5兆円強でかなり大きなものであり、その平均入札価格は100,001円となり、これを計算するとマイナス0.0037%となります。これで日銀はお金を借りるのに5000万円強のお金をもらうことができました。とは言ってもこれを購入した金融機関はその資金を日銀にブタ積すれば付利が0.1%つきますので技術的には本当のマイナスにはなっていません。

では、なぜ、マイナス金利が発生するのでしょうか? これは日銀の異次元の金融緩和で国債という市場で日銀が国債の買い手となり市場から買い上げているからであります。巨大な日銀というバキュームカーが国債を吸い込んでいると想像していただければ良いでしょう。売り手の金融機関などがもう売るものがないというぐらいの希薄な市場となった一方、金融機関では国債に対しては一定の需要があるためその成立しにくい短期国債市場で買いを入れれば国債価格は上昇し、金利はどんどん下がってしまうのです。それがマイナスの世界を作り出したからくりです。

こう考えると直接的にはデフレとは関係がなく、単に技術的な結果でしかありません。但し、日銀の積極的な買いのみならず、国債にこれだけの人気が集まっているという背景は安定感を求める市場の声であり、究極的にはデフレリスクで需要喚起を求めているとも言えそうです。例えば住宅ローンの金利と密接な関係がある10年物国債(現物債市場)は遂に一時0.46%と2013年4月以来の水準となっています。日銀は短期国債市場でマイナス金利となってしまったためにこれ以上、この市場にインパクトを出せないと考えるでしょうから今後、中期国債(2-5年)にシフトするかもしれません。当然、長期にも影響するため、住宅ローン金利は更に下げることができるかもしれません。

事業者の場合はどうでしょうか? 私もそうですが、日本で事業資金を例えばTiborベースで調達している場合には本当にこんな金利でよいのか、という水準になっているはずです。これが冒頭の「金利がかからない資金はいつまで借りていても痛くもかゆくもないから無理しなくてよい」という発想につながります。あるいは今からマンションを購入する人たちにとって金利が安いという文言は聞き飽きるほど耳にしてきたはずでそれよりも物件価格が落ち着くのを待つか、本当に気に入った物件が出るまで待つという消費行動に出るはずです。

例えば今、マンションの販売戸数が減っていますが、それは供給側がその数を絞っているからであって売れ残っているわけではありません。土地代、建設費が高くなる一方でエンドプライスが上げられない為に優良物件が少なくなっている、それだけの話です。

このストーリーラインからすると金利が異次元だろうが、マイナスだろうが、消費も喚起しないし、供給側にも力が入らないことが見て取れるかと思います。金利が低いのは力のない事業者を救うには実にふさわしい手法でありますが、それは正常な市場を育まないという点において重大な欠陥が生じやすいのであります。

ここを見誤らないようにしないとアベノミクス第一の矢はぽきっと折れてしまいかねません。実に微妙なところに来たな、という気がいたします。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年10月25日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。