前ローマ法王べネディクト16世がラッツィンガー枢機卿時代の著書全集第4巻(Freiburger Herder-Verlag)の一部を書き直したことが明らかになり、話題を呼んでいる。べネディクト16世が書き直した部分は離婚、再婚者の聖体拝領問題についての箇所だ。
1972年の初版では「神の下で婚姻した夫婦は絶対に分けることができない」という教会の教えに基づき、離婚、再婚者は聖体拝領を受けることはできないが、「可能性は限られているが、教会の伝統の中では、個人的解決によって、離婚・再婚者が聖体拝領を現場の聖職者に認められる例はある」と書いていた。その箇所を今回、「離婚、再婚者が聖体拝領を受けることは不可能だ」という教会の教えを明確にする一方、「聖体拝領を受けるためには婚姻無効手続きを行うことだ。それによって、再婚者に離婚、再婚者の聖体拝領の道が開かれる」と筆を加えているのだ。
教会の教えを順守する一方、離婚、再婚者を突き放すのではなく、その解決策を提示している。表現の微調整に過ぎないといわれればそれまでだが、神学者べネディクト16世の書き直しは「それだけではないだろう」と多くのバチカン・ウォッチャーたちは受け取っている。興味深い点は、前法王の書き直しをバチカン放送独語電子版が18日、かなり大きく報じたことだ。
独ミュンスターの教会歴史学者フーベルト・ヴォルフ(Hubert Wolf)氏 は独日刊紙フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング紙(20日付)に寄稿し、その中で前法王のべネディクト16世とフランシスコ現法王はバチカンでは2つの異なった権力拠点だと指摘している。俗な表現でいえば、、前法王と現法王の権力争いを懸念しているわけだ。
同氏は、1415年に退位した法王グレゴリウス12世(在位1406~1415年)を例に挙げ,前法王の在り方を述べている。教会大分裂の時に選出されたグレゴリウス12世は退位後、現法王との誤解を回避するため枢機卿会議の一メンバーに戻り、法王の白衣を脱ぎ枢機卿の服に着かえたという。
ところが、べネディクト16世は特別世界司教会議(シノドス)で争点となった離婚、再婚者への聖体拝領問題について、自身の著書で意見を明確にすることで、高位聖職者へ影響力を行使する一方、フランシスコ現法王に対して権力争いを臨んでいるかのようだ、というのだ。少々、深読みの感じがする。現・前の2人の法王が同じ時代に生存していれば、様々な争いや軋轢が生じてくるのは至極当然なことだろう。ちなみに、離婚・再婚者への聖体拝領の是非問題では、べネディクト16世の考え方はバチカンの保守派代表で教理省長官のミュラー枢機卿とまったく同じだ。
蛇足だが、離婚、再婚者の聖体拝領問題について、べネディクト16世とフランシスコ法王の間では余り大きな見解の違いはない。学者出身の前法王が表現に拘る一方、南米出身のフランシスコ法王は実質的で単刀直入の発言が多い、という相違があるだけだ。
いずれにしても、教会が本来取り組まなければならない点は、離婚、再婚者への聖体拝領是非に頭を痛めることではなく、なぜ婚姻した信者夫婦が離婚するかを深刻に考え、信者夫婦に助言と処方箋を提供することではないか。それができないとすれば、聖体拝領云々の論争はまったく意味がないことになる。
編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年11月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。