ウクライナ問題に端を発する欧米の経済制裁、そしてサウジアラビアから挑戦状を突きつけられているアメリカとロシアの石油市場の仁義なき戦いでロシア経済に黄色信号が灯っています。
12月15日北米でのロシアルーブルの為替は月曜日のモスクワ市場の流れを受け、対米ドルで1日にして13%も変動し、58ルーブルから一時67ルーブル/ドルを付けるなど激しく売り込まれました。近年30-40ルーブル/ドル程度で推移していた為替が吹っ切れたように動き出したのはウクライナ問題の最中の今年5月でした。そして今やかつて見たことがない水準までルーブルは追いやられています。
同じことはロシア株式市場でも起きており、年初からの下落率は4割を超え、5年7か月ぶりの安値に沈みこんでいます。ロシア株式の株式指標のRTSはドル建てで評価されるため、月曜日のモスクワはRTS指標は6.8%下落、今日もどこまで売り込まれるのか、否が応でも注目される事態となっています。
通常、為替が一日にして10%以上も変動するというのはデフォルトなど非常に特殊な事情が生じない限り発生しないものです。石油価格は今日もニューヨーク市場で激しく売られ、下値55.02ドルをつけるなど4.5%以上の下落となっています。いわゆる崩落状態にあるのですが、石油生産量が世界トップクラスのアメリカ、ロシア、サウジの三国の中でその算出コストはアメリカ(シェールで優良なもの)が40ドル-70ドル、ロシアが40-60ドルに対してサウジは10ドル程度とされています。つまり、サウジが本気を出せばアメリカでもロシアでも石油市場を通じて世界経済を完全に狂わせることができる状況にあります。
ロシアの場合には西側諸国の経済制裁があり、企業の資金調達も厳しくなりつつあるとされ、借り換えや借り増しなどが滞っているとされています。外貨準備は世界で5-6番目あたりでまだ潤沢とされており、10月半ばで4500億ドル程度あるとされていますが為替介入も含めその減少が急激になってきている模様です。また、一部にはその外貨準備の内容がどんなものか不明瞭であるとする見解もあり、今後のロシア中央銀行や財務当局の動きには注目すべき事態になっていると思います。
一方、通貨防衛と輸入物価インフレ対策のために政策金利は10.5%に引き上げられたばかりですが(追記:この記事アップ直後にロシア中銀はなんと17.0%に引き上げました)、この攻防が今しばらく続くとなればロシアがソ連時代に経験した「厳しい冬の寒さ」が再び戻ってくる可能性は大いにあります。
プーチン大統領としての対策はまずは中国との関係強化でこの難局を乗り越えることを考えるのではないでしょうか? ローカル通貨を貿易の手段とするとした両国首脳ですが、習近平国家主席としては今、ルーブルをその手段にするには大きなためらいがあるかと思います。ただ、食料や生活物資などの輸入ルートは確保され、天然ガスの販売先としての安定感もあることからロシアの行方については今しばらく様子見ということになるのでしょう。
ロシア経済の崩壊は旧ソ連邦諸国への影響、更には東部ヨーロッパを含む世界中への影響が出るため、未然に防がなくてはいけませんが、それに歯止めをかけるところが今のところ、中国以外にない、というのが世界の勢力地図のようにみえます。特にアメリカは経済制裁を施し、共和党が議会を制する中で緩和策を含めた方向転換は見込みにくいのではないでしょうか?
また、サウジがなぜ、アメリカにそこまで勝負を挑むのか、いろいろ考えてみたのですが、オバマ政権の世界の警官ではない、という姿勢が中東との関係、更には中東内での微妙な力関係のバランスを崩したようにみえます。シリア政策しかり、イスラムの国の問題もしかり、アメリカは外交において中途半端すぎました。もっとそれをピンポイントで見ればライス大統領補佐官に対するオバマ大統領の擁護のようにも見えます。
こうやって連想していくといつもアメリカに行きついてしまうのですが、世界はそれぐらい連携しており、微妙なバランスの上に乗っかっているともいえるのです。国家元首のたった一つの行動でそのバランスはどうにでも変化し、地球規模の衝撃ともなり得る時代だともいえるのでしょう。
世界はグローバル化で強くなった半面、弱くなった半面もあるという言い方もできます。
石油は出るけどコストが高い、あるいは石油が国家財政に直結している国は石油依存体制から一刻も早く脱却しないと日進月歩の世の中に対応できなくなるかもしれません。私はカナダからこの問題をみていますが、ここの産油コストも採算割れが近づいてきた中、2015年がカナダにとっても対岸の火事では済まされなくなるだろうと考えています。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年12月16日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。