経済の発展を願うならば、国民の士気のほか、科学技術、生産インフラ、投資など様々な要素が絡んでくるが、他国、隣国と紛争や戦争をしている場合、国民経済の発展は望めないものだ。
12月25日はクリスマスの日だった。世界から巡礼者、旅行者が毎年、この時期になると聖地エルサレム、イエスの誕生の地ベツレヘムなどに殺到する。イスラエル、パレスチナ側にとって観光業は重要な収入源だ。イスラエル側によると、クリスマス・シーズンには約7万人の旅行者が訪問するという。しかし、今年はその旅行者、巡礼者が減少、観光業は悲鳴をあげているというニュースが飛び込んできた。
イスラエルの観光局によれば、昨年の観光旅行者数は約354万人で記録を樹立、今年上半期も前年同期比で約18%増と順調な伸びを見せていたが、下半期に入ると急減、最終的には今年は前年比で約1%減となってしまったというのだ。
今年下半期の旅行者減の主因は誰の目にも明らかだ。今夏に勃発したイスラエルとパレスチナ間のガザ紛争が影響した。イスラエルの3人の青年が拉致され、死体で発見された。イスラム過激派組織ハマス側は関与を否定したが、イスラエル側は「ハマスの仕業」として報復を宣言。その直後、今度は1人のパレスチナ人の青年の死体が見つかった。イスラエル側は「パレスチナ人青年殺害とは関係ない。ハマスの軍事拠点を中心に軍事攻撃をしたが、民間人を衝撃の対象としていない」と弁明した。パレスチナ側は「イスラエル側の報復」と批判。そしていつものように、パレスチナ側とイスラエル側の武装紛争がエスカレートしていったことはまだ記憶に新しい。
50日間余りのガザ紛争は多くの死傷者を出したが、国民経済にも大きなダメージをもたらした。聖地周辺で激しい紛争が展開し、多数が死傷している時、旅行者は当然、途絶える。聖地周辺の土産店、レストランといった観光業に関わっている人々にとっては大変だ。土産店の店主が「誰も来ないので、商売にならない」と嘆いていたのが印象的だった。
残念なことだが、紛争はイスラエルとパレスチナ間だけではない。ウクライナ紛争が勃発し、キエフの国民経済ばかりか、ロシアの国民経済、そして対ロシア制裁を実施中の欧州連合(EU)諸国の経済にも程度の差こそあれ経済的ダメージを与えている。中東地域では絶えず、戦闘が続いている。
2015年の世界経済の見通しは楽観的ではない。紛争が続く限り、経済の本格的な回復は期待できない。経済発展のためには先ず、紛争を停止しなければならない。
ちなみに、「韓国動乱では日本の国民経済は恩恵を受けた。平和だけが国民経済の発展条件とはならない」という主張が飛び出すかもしれないが、紛争、戦争による経済効果は一時的であり、持続的な国民経済の発展にはやはり“平和”が欠かせない。なぜならば、経済活動は本来、創造的な業であり、創造作業は自由と共に、平和がなければ発揮できないからだ。
編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年12月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。