成功企業の戦略策定

北尾 吉孝

レランサという戦略コンサルティング会社の社長、スティーブン・ブライスタインさんは「成功する企業が策定する戦略に5つのポイント」を見出されているようです。それは、①どのビジネスを排除するのかを決める/②まず行動し、後から賛同を得る/③完璧さよりもスピード/④競合相手の分析をやめる/⑤未来は予想するのではなく、創造する、ということだとしています。

これらの内③と⑤に関しては、特段の指摘を要さぬものでしょう。当ブログでも過去、『速くて雑な仕事、遅くて丁寧な仕事』(13年7月18日)や『未来を予測できるものに未来は訪れる』(17年2月23日)等と題し、述べてきたことであります。御興味のある方は、是非ご覧頂ければと思います。本ブログでは以下、残り三点につき私が思うところを簡潔に申し上げます。

先ず①どのビジネスを排除するのかを決める、とは正に耶律楚材(やりつそざい)の、「一利を興すは一害を除くに若かず。一事を生ずるは一事を減ずるに若かず」に包含されましょう。耶律楚材とは、若干27歳で54歳のチンギス・ハンの宰相となり、30余年モンゴル帝国の群臣を仕切った非常に博学かつ胆識を有した人物です。此の捨てるとか省くということは何でも彼んでも付け加えることよりも大事な思考であって、私は経営者として何時も此の言葉を頭に入れています。

我々は絶えず問題を省(かえり)み、そして省(はぶ)くことの意味を噛み締めて行かねばなりません。それは、害となる恐れのあるものを減らして行くことかもしれませんし、また、他のものを増やす場合は限られた経営資源の有効利用という観点から何かを減じた方が良いということかもしれません。

次に②まず行動し、後から賛同を得る、との指摘は、少し違っているのではと思います。何が違うかと言うと、『孫子』に「夫れ未だ戦はずして廟算するに勝つ者は、算を得ること多きなり」とあるように、戦の勝敗は(びょう:祖先・先人の霊を祭る建物)で作戦会議を行う時に既に決しています。勝算なき戦に足を踏み入れぬよう、余程慎重に検討を重ねなければ駄目なのです。之また『孫子』に「算多きは勝ち、算少なきは勝たず。而るを況んや算無きに於いてをや」とある通りです。

従って「まず行動し、後から賛同を得る」のではなく、事をスムーズに運ぶべく「まず堂々と主張し、皆の英知を結集して合意を得るよう努める」方が明らかに良いと思います。その努力を怠り取り敢えず行動するというのは、ある意味何事も成功するかの如き錯覚に陥っているのではないでしょうか。

逆に私の場合は、「十のうち一~二つが思い通りに行ったら御の字」とか「失敗するのが当たり前」とかと考えますから、それだけ慎重に様々な事柄に当たっているわけです。同時にまた、勝機を失わぬよう決定事項は果敢に断行し、動的に変化を洞察しながら臨機応変に軌道修正もして行くことが肝要だと思っています。

最後に「自社の強みに基づいて市場と業界を定義し、自分たちのやり方でライバルに競争させる」とのことで④競合相手の分析をやめる、とありますが、之は完全に違っていると思います。『孫子』に「彼を知り己を知れば百戦危うからず」とあるように、相手がいる以上やはり相手を考慮せずに何事をやるわけには行きません。競合相手に対する徹底分析なかりせば、百戦危うしということになるでしょう。

BLOG:北尾吉孝日記
Twitter:北尾吉孝 (@yoshitaka_kitao)
facebook:北尾吉孝(SBIホールディングス)