前回、拙ブログで取り上げた東芝の「不適切会計」問題では、久保利英明弁護士がNBオンラインのインタビュー記事が有益だ。「東芝の第三者委員会(委員長=上田広一・元公共高検検事長)の調査報告書は『落第点』」と切って捨て、納得てきない「4つの問題点」を挙げている。
歴代3人の社長が辞任したが、「3人を“人身御供”にして幕引きを狙っているようにも見える」と批判したのは納得できる。
久保利氏が指摘する第三者委員会の「4つの問題点」はまずどんな問題があったのかの具体的な事実が書いていないこと。第2は社内の関係者がその事実をどう評価したかが、書かれていない。
例えば「チャレンジ」というキーワード。社長がどういうときに発言したのか分からないと、本来の意味での「挑戦」なのか、は利益を水増しして「粉飾」するように命令したものなのか、読み解けない。
何月何日、誰と誰が出席していた会議だったのか。発言と同時に机を叩いたのか、静かな口調だったのか。出席者は社長の発言をどう理解し、その場で財務部門は反論したのか。こうした具体的な内容を明らかにする必要がある。
まったくその通りで、これは今回の東芝の会計を「粉飾」とせず、一貫して「不適切」としたこと(4つ目の問題点)にかかわる。
経営判断は「合法」であるのが大前提だ。会計を操作して粉飾しようというのは経営判断とは呼べず、「違法行為」とするべきだ。報告書では徹頭徹尾、「不適切」という表現が使われている。これは「不注意」とも言い換えられるレベルの言葉だ。違法性があったならば「不適正」と言うべきだろう。厳密に言葉を選ぶべき法律家が執筆した報告書で、なぜこの言葉が使われているのか。
東芝の歴代社長も、不適切なレベルの以上の行為をしていないなら、辞める必要は無い。報告書には書かれていない事実が、どこかにあるはずだ。
この指摘は重要である。「不適切」(合法)なのか「粉飾」(違法)だったのかは、3つ目も問題点「会計監査人への調査をしていないこと」にかかわる。
会計不正でゲートキーパーになるのは監査委員会と会計監査人、そして内部監査だ。今回はここがダメだったのに第三者委員会は「調査の領分ではない」として報告書ではほとんど触れていない。事実上突っ込んでいないわけだ。
会計不正問題が起きた場合、経営陣に加えて監査法人も刷新し、新しい体制でスタートした方がすっきりする。仮に第三者委員会が新日本有限責任監査法人を調査していなかったとしても、「付き合いが長いし、これだけの問題が起きたのだから監査法人を変えるべき」と、再発防止策を提言することは可能でしょう。ところが、それすらやっていない。
新日本監査法人は東芝に「だまされた」か「グルだった」かのどちらかだ。「無能」であるなら話は別だけど。もし東芝にだまされたのなら、新日本監査法人の方から「三行半」を突きつけるのが筋だろう。信頼関係が根底から崩れたはずだから。ところが、そんな動きは見えてこない。
以上から、久保利氏は3人の社長が辞任したからと言って、東芝問題の幕はまだ下りていないという。
有価証券報告書の虚偽記載で告発されるシナリオは残っているし証券取引所の判断もこれからだ。刑事事件に発展する可能性もゼロではない。次の焦点は経営者選びだが、一筋縄ではいかないだろう。今の財務部門が温存されたままでは、リスクが大きすぎて社外取締役の引き受け手はいないのではないか。
今回の第三者委員会の報告書は中途半端であり、東芝の株主はもとより顧客、取引先など多くの関係者にとって、およそ納得が行かないものであることは確かだ。