福島市長が、福島駅の近くに設置した「サン・チャイルド」という像を撤去することを決めた。これ自体は大した事件ではないが、福島をめぐる「空気」の変化を示している。作者のヤノベケンジ氏は、2011年にこれを制作した動機をこう語っている。
黄色い放射能防護服を着ていますが、ヘルメットを脱いで左手に抱え、顔に傷を負い、絆創膏を貼りながらも、空を見上げて逞しく立っています。胸のガイガー・カウンターは、ゼロを表示しています。
子供は未来を表しており、それらは放射能の心配のない世界を迎えた未来の姿の象徴でもあります。そして、右手に持つ「小さな太陽」は、次世代にエネルギー問題や放射能汚染が解決される「未来の希望」を象徴しています。
この像のメッセージは明らかだ。「放射能をゼロにして初めて子供が健康になる」という主張である。右手にもっているのは、太陽光発電がエネルギー問題を解決するという意味だ。ガイガー・カウンターがゼロになることはありえないが、作者は「原子力災害や核がゼロになった世界を象徴的に」示したと弁解している。
これがネット上で騒ぎになったとき、私はコメントする気になれなかった。このオブジェは悪趣味だが、それだけの話だ。「放射能ゼロ」も表現の自由の範囲内であり、彫刻家を非科学的だと糾弾してもしょうがない。この像は2012年に福島空港に設置されたが、そのときは批判は出なかった。
今回もマスコミは批判しなかったが、ネット上で批判が高まり、アンケートでも7割が反対だったという。これは意外に大きな変化である。かつて朝日新聞が「プロメテウスの罠」で「放射能で鼻血が出る」などという風評被害をまき散らしたとき、多くの人がそれを賞賛した。科学的にありえないことでも、放射能は悪だったのだ。
放射能は悪ではない。自然放射線をゼロにすることはできないし、する必要もない。福島第一原発事故でも、放射能による死者は出ていない。今これを否定する人はいないが、事故の当時、民主党政権は「年間1ミリシーベルト」という非科学的な安全基準を出し、これを根拠に過剰避難や莫大な損害賠償請求が発生した。
放射能をめぐる迷信が変わってきたことは重要だが、デマを流した人々が復興を妨げた罪は大きい。ヤノベ氏は謝罪のコメントを出したが、今度は反原発派がデマを撤回して謝罪するときだ。