経済財政諮問会議で、安倍首相が「最低賃金1000円をめざす」といったことが話題になっています。最低賃金とは、法律で「これより低い賃金は禁止」と決める規制です。「GDP600兆円」が物笑いのたねになっているので、それを実現するために「年3%賃上げ」を政府が強制しようというわけです。
そんな簡単に、政府が成長を実現できるなら、とっくにやっているでしょう。民主党政権も2010年に1000円をめざしましたが、何も実現できませんでした。法律で最低賃金を上げれば確かに1000円未満の時給はなくなりますが、それで労働者は幸せになるんでしょうか?
安倍さんは知らないようですが、賃金だけでなくものの値段は需要と供給の一致するところで決まります。いま全国平均の時給は800円ぐらいですから、図のように企業の労働需要と労働供給がここで一致しているわけです。そこで時給を1000円に上げると、どうなるでしょうか?
図のように企業の人件費が一定だと、雇える人の数が減ります。たとえば時給800円で1000人雇っていた会社は、時給1000円になると800人しか雇えなくなります。この差の200人が失業するわけです。
失業するのは正社員ではなく、弱い立場のパートやアルバイトです。つまり最低賃金を上げるということは、恵まれた労働者の賃金を上げて弱い労働者をクビにする政策なのです。
これは50年以上前にミルトン・フリードマンが指摘してから、多くの経済学者が実証研究をしてきましたが、だいたい最低賃金を10%上げると失業率が1%ぐらい上がるといわれています。日本はいま失業率が低いので、ちょっとぐらい上がってもいいと安倍さんは思っているのでしょう。
しかしこれによって「GDP600兆円」も「成長率3%」も実現しません。なぜなら労働者の所得は1時間あたり
800円×1000人=800万円
だったのが、最低賃金を上げることで、
1000円×800人=800万円
になるだけだから、経済全体としては同じです。クビになった200人のパートやアルバイトは、生活保護で暮らせということでしょうか。
そもそも政府が「2%インフレにする」と決めたら2%になり、「3%成長する」と決めたら3%になるのは、社会主義国の話です。安倍さんのおじいさん(岸信介)は国家社会主義の元祖として有名ですが、安倍さんもだんだんおじいさんに似てきたみたいですね。