デジタル教科書教材協議会DiTTシンポジウム@慶應義塾大学三田キャンパス。テーマは「タブレット学習サービス」。ベネッセコーポレーション上田朗子さん、ジャストシステム寺尾房代さん、小学館関俊行さん、Z会草郷雅幸さん、リクルート中野慧さんに登壇いただきました。
ベネッセは小学生向け通信教育「チャレンジタッチ」を2014年4月にスタート。ぼくはテレビCMやオープニングイベントでも協力しました。ログイン率90%、完遂率80%を誇るサービスに育っていて、継続率が大きく伸びているそうです。
ジャストシステムの小学校向けタブレット活用統合ソフト「ジャストスマイルクラス」は、80%以上の小学校に導入されているといいます。2012年12月には通信教育スマイルゼミを開始。家族のコミュニケーションを活性化しながら、保護者とともに学ぶしくみを講じています。
小学館のデジタル学習サービスは、漢字の習得、基礎計算など5教科の徹底的な反復学習、高いレベルの基礎学力の習得に注力。Z会のサービスはSNSによるコミュニケーションに力を入れているとのことです。
リクルートはこの分野の新参だが、「受験サプリ」は受験生の半数が使っているという人気。小中学生向けの「勉強サプリ」はカリスマ先生の授業動画を中心に低価格で提供。ログデータを活用した学習計画リコメンド機能もあります。正答率が100%でも50%でも継続性は低いが、90%だと続くんだそうです。ビッグデータを活かしたサービスですね。
いくつか質疑がありました。
Q ビジネスの手応えは?
ジャスト:1年でプロジェクトから事業部に成長した。
Z会:継続する人が増え、タブレットがサービス全体の半分を占めている。
小学館:家と学校との好循環を生んでいる。
ベネッセ:コミュニケーションの深化に不可欠なサービスだと感じている。
リクルート:自治体へも広がりを見せている。
Q サービスの効果をどう評価する?
リクルート:動画の視聴と成績の向上には明らかな相関がみられる。紙よりも継続性が高い。
ジャスト:子どもの学習する姿勢が積極的になった。小学館:学力の向上にも実証結果が出ている。
Z会:紙と違い、他の会員と競争したり存在を感じたりしながらの学習が意欲に結びついている。
ベネッセ:マンガの投稿欄が人気。最初は棒人間ばかりだったのが、表現が進化して、大作になっている。学び合いの成果と言えよう。
Q コミュニケーションはどう?
小学館:家庭内、教室内のコミュニケーション活性化が大切だ。
ジャスト: SNSは父親から好評を得ている。みんなもやっている、という感覚が勉強のモチベーションになっている。
Z会:同じ志望校の会員同士のコミュニケーションが有益。会員が居場所を感じている。ただ、リテラシーの問題はある。
ベネッセ:年齢や発達段階により、第三者を入れてコミュニケーションを円滑にする設計を工夫している。
ぼくはこうコメントしました。
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DiTTはこれまで政府や自治体の対策を求めてきました。一方、DiTTは民間企業の集まりであり、民間の力で教育を変えようというのが元々の趣旨です。その点、ここ1~2年で民間の動きが本格化し、サービスが普及しているのはうれしい限りです。
リクルートは新参と言うが、17年前にぼくがMITに渡ったとき、リクルートのかたがたとメディアラボでデジタル教育のワークショップを開くなど共同研究を進めていて、その頃からの取組がいま花開いているんです。
ぼくが日本の状況が変わったと感じたのは2年前。小学館がDSソフト「ドラちえ」を発売した際、DSをいじってる子どもをみて、「もっとやりなさい」というテレビCMを放映しました。そう、デジタルをもっと使って楽しく学ぼう。企業側がようやく正面からそう言えるようになったんです。
教育をビジネスにするな、という声が今もあります。教育をビジネスにしなければ、企業は投資せず、技術もソフトもサービスも進化しません。日本だけがそれでよいのか。
サービスが本格化する際、ベネッセとジャストシステムに関わる個人情報の悶着がありました。その両者がこうして並んで登壇してくれるのはDiTTならでは。競合しつつも市場を作っていきましょう。
タブレットやネットというハードから、サービス、コンテンツというソフトへと議論が移ってきました。ぜひ民間サービスの進化で日本の教育をリードしていただきたい。さらに、世界展開を期待します。世界の子どもに豊かな学習を届けていただきたい。
編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2015年12月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。