ない袖は振れない
老後までに2000万円が用意できなければ…生活保護を受ければいいのである。財政状況が厳しければ…年金の受給年齢が上がる、もしくはもらえる金額が減るだけ。年金制度は破綻しない。するわけがない。
各党は再配分の仕方ばかり議論しているが、問題は財政である。財政が厳しいのも、経済がうまくいっていないから。「経済」をどうするか、特に人口減少を前にして今後どうやっていくか、国家戦略を考えることが今本当に必要な議論だろう。
経済政策を今後どうするのか?が議論されていない
アベノミクス的には各種指標で結果は残せてはいる(日銀のバランスシートの問題は別として)。しかし、日本産業は「スカスカ」になり、部品産業に転落(液晶、半導体、アンテナ周りの製造業は強いが最終製品は自動車くらいか・・・)してしまっている。世界で売れる商品・サービスは少なくなった。
1人あたりGDP:OECD諸国の中で26位
時間当たり労働生産性:OECD諸国の中で20位(先進国中最下位)
この現実を受けて、今後どのような方向を目指していくのか。そのための優先順位をどうするかを本来議論しなくてはいけないはず。安倍政権はSociety5.0、生産性革命、働き方改革などを掲げ、実行してきた。これに対しての対案を野党は提起できているのか。
この国のかたち!を問うのは「今でしょ」
今回の参議院選挙。なんだかんだ平成が終わって新しい令和の時代なのに、相変わらずの選挙戦である。
キャッチフレーズが飛び交い、中身のない主張、政策ごとの各論ばかり。そして、候補者は名前を連呼する。
政党の代表、各候補から「国家戦略」がほぼ聞かれない。「国家戦略」の定義は「国の存続と国民生活の向上を目的とした、持続可能な資源配分の方向性」である。
たしかに、内閣府をはじめ、それぞれの省庁が頑張って「戦略」を作成している。日本再生戦略、地方創生戦略…政府が戦略をたくさん持っている、いや持ちすぎている。さらに言うと、観光立国、教育立国…など〇〇立国が並ぶ。
しかし、この「戦略のインフレ的状況」の問題は2つ。
第一に、戦略が多すぎて、全体統合・体系化が不十分なこと。つまり優先順位が不明確であること。結局、すべての政策が「優先度が高い」ことになり、メリハリの着いた予算配分・人員配分はできない。政策の重要度の強弱が見えない。
第二に、中身を見ていたらわかるが、これが単なる政策・施策の羅列になってしまっていること。やりたいことリストにとどまってしまっている。方向性はこれで、根拠はこうで、どれくらいの予算をかけて、目標値はどれくらいのレベルを目指し、根拠はこうで、責任は誰がとるのか、が不明確である。
国家戦略を考える思考のヒント
サウジアラビアでさえ、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子を中心に策定された「サウジ・ビジョン2030」では、レンティア国家(国民から税金を取らずに石油収入を配る)からの脱却を掲げ、経済改革の必要性を明確にして実行に着手している。中国ではもちろん「一帯一路」、そして「中国製造2035」、AI戦略の存在も知られている。
これらの国々が必死に頑張っている中、日本は実行どころか、あいまいな形での浅い議論すらされないのでよいのだろうか。せっかくなので、そのための、補助線をひいてみてあげよう。
- 安保:トランプ大統領が「不公平な合意」とした日米安全保障条約はこのままでいいのか?
- 対中国:中国との関係をどうするか?「Sharp Power」と呼ばれる国々に対する対応・防衛は?
- 民主主義:人間の尊厳、自由、民主、博愛という価値観をどう尊重するか?
- 経済政策:顧客が求めるサービス・製品を作るスタートアップをどう作っていくのか?
- 優先順位:どの産業部門に集中するか?
などを今一度明らかにしてもらいたいものだ。
巨大化する中国にどのみち本気で向き合わない、、、今回も「スルー」
今回の選挙、伸長する中国に対しての言及は本当に少ない。自民党公約では「中国等の近隣諸国とは、わが国の国益を十分踏まえた外交を展開し、戦後日本外交を新たなステージに導きます」とあり、公明党公約では「戦略的互恵関係を発展」、その他の党は「中国」についての記載はほぼない。
しかし、中国は巨大化現地に。現地に行ってみるとその発展にビビる。
「デジタルレーニズム」の中国の存在感は今以上に高まるだろし、その存在を視野から避けては通れないはず。10年もしないうちに、日本国民が中国に出稼ぎをしなくてはいけなくなる未来も考えられるのに、だ。
「対米追従のままで行く」「中国やシリコンバレーの先端産業に追いつけ追い越せ」「中国のように権威主義国家になる」「民主主義を徹底主張」「インドと仲良くする」でもよい。野党は細かいレベル、小さい「政策案」をどうのこうの議論するのもいいが、大きな「戦略」論を展開しないとあまりに意味のない選挙戦になってしまう。
有権者が求めているのはそこだ。
西村 健 日本公共利益研究所 代表・主席研究員