バブルとその崩壊を人生の中で何度か身近で経験しながら「次は何バブル?」と注意深く見続けてきました。明らかにマネーのアロケーションがいびつで金持ちにそのお金が集中しすぎています。理由は過度な資本主義の代表的悪役である資本家がインキュベーション中(孵化中)のヨチヨチ企業を大枚をはたいて根こそぎ買収してしまうからです。
なぜ東大生は官僚よりも起業家を目指すのか、といえば東大卒というブランドを持つ創業者の事業を「お金がすべて」と思っている投資家が過度なバリュエーションで市場価値の5倍、10倍ですら「これでも安い買い物」と信じているからでしょう。そこにはちょっと話題になった会社への無理な過信を伴います。
私の周りにうまくExitした起業家が中途半端な小金をもって「次の投資先」をワインをくるくる回しながら探しているのです。この兆候は昨日今日に始まったわけではなく、2000年代初頭のネットバブルの際に「偉くなりたいならアメリカのMBAをとろう」というブームがあった頃に端を発しています。
当時、話題になった堀江貴文氏や村上世彰氏が東大というブランドを持っていた(堀江氏は卒業していないが)ことから大学には戻れないけれどMBAなら今からでも取れる、という後押しがあったことも否定できません。
その間に大きく育ったのが三木谷浩史、孫正義両名で今や買収して寡占の市場を突き進んでいます。
長期化する低金利は小金持ちの人を銀行預金から「何か面白いものに投資する」という姿勢に変貌させました。日本人がFXでトルコリラが大好きなのは国のリスクをも顧みずその表面利回りに飛びつくからであります。あるいは聞いたこともない健康食品に億単位の資金が集まるのは「もっと儲けたい」という一心だからでしょう。
さて、こんな日本の金の亡者はそれでもアメリカ人よりまともな気がします。かつてアメリカのエンジェル投資家といえば真に野心家を育てようという気持ちが先行していたはずなのに今はリターンの計算ばかりするようになってしまいました。
ネットフリックスが大金をはたいてどんどん新作を作るのは投資家のマネーを背景に「今、ここで頑張らないと競合他社に勝てない」と湯水のごとく、資金を使いまくるからです。会社がどれだけ赤字になっても平気なのは同社に限らず、ウーバーもWeWorkもそうでしょう。連中の金の使い方は尋常ではなく、健全経営という思想はなく、あたかも203高地で兵隊がいくら死のうが、そこに工夫もなく繰り返し兵力を投入して犠牲者を積み上げるのとそっくりなのであります。
22日の日経の一面は 「『債務の宴』静かな異変 米低格付け融資、資金流出続く」であります。ローン担保証券(CLO)から投資家が資金を引き揚げる傾向があるというのです。専門的なので詳述は避けますが、要は起業したばかりの会社の将来性と収益性に対して投資家が疑問視し始めた公算が見て取れるというのです。そしてそれはよさげに見える若い会社の価値をあまりにも高く評価しすぎており、将来、景気の変動があった際の耐性が不十分ではないか、というものです。
リーマンショックの引き金となったCDO(不動産担保証券)とある意味似た体質を持っており、アメリカがナチュラルな景気後退ができず、カンフル剤を打ち続けているという見方もできなくはありません。
我々は過去の何度かのバブル崩壊を通じて強靭な金融体制を敷いてきたと信じています。しかし、人の欲望がその間隙を縫って予想もつかないほど加熱した場合、それを本当にコントロールできるのか、試練が待ち構えているのでしょうか?
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年9月24日の記事より転載させていただきました。