世界最大の企業、サウジアラビアのアラムコが上場し、初日は10%アップのストップ高を付け、幸先の良いスタートを切りました。同社の上場については紆余曲折しましたが、結局、まずはサウジ市場で発行済み株のわずか1.5%の放出となりました。それでも今回の上場による調達額は256億ドル(2.8兆円)とかつての最高だったアリババを抜き、最高額を記録しました。
サウジアラビアの国営石油会社「サウジアラムコ」は11日、国内の証券取引所に新規株式を公開し、時価総額は日本円で200兆円を超え、アップルを抜く世界最大の上場企業が誕生しました。https://t.co/IQ2FCLCr97
— NHK国際部 (@nhk_kokusai) December 11, 2019
基本的にはサウジ政府が大半の株式を所有し、経営権も上場を通じて何か変わるわけではないため、アラムコの株を持つのはポートフォリオ上としての将来性を見定めることになります。では同社の将来がバラ色かといえば基本的には石油を取り巻く環境は厳しいものがあり、いくら同社の石油生産コストがバレルあたり2.8ドルとアメリカのシェールガス業者に比べ10分の1であったとしても今後、どんどん、石油の消費量が増える時代にはならないとみています。
一方で石油価格はコントロール可能な部分がある程度はまだ残っています。それはOPECという産油国の一部が協調して産油量を調整できるからです。「ある程度」というのは加盟国が中東を中心とする14カ国しかなく、産油量が多いアメリカ、カナダなどが入っていないことで70年代の石油ショックの時のような価格支配権はありません。
ただし、世界第3位の産油国であるロシアがOPECに加盟こそしていないけれどOPECプラスと称される存在であります。また、今でもOPECの動向が注目されるのは価格の下落に対する対応力はまだ残っているとされ、減産を発表するとそれなりに原油価格は上昇に転じています。ボトムラインとしては産油コストが圧倒的に安いことが原油価格統制へのグリップになると考えてよいのかと思います。
事実、12月6日にOPECで減産拡大を決定し、サウジは更に自主的減産を行うとしたことでNYマーカンタイルでは58-59㌦程度に上昇しています。この1年で見ても40ドル台後半から50ドル台後半にじわっと上がっている感じです。原油価格は高値だろうが、安値だろうがある程度安定していることが世界の経済活動には最も重要なファクターであり、その点においてサウジアラビアの役目は中心的であるとみてもよいでしょう。
その中心にあるアラムコが上場する意味はどこにあるか、と言えば同社の価値がサウジの価値として数字に表れるということです。となれば株価を下げるわけにはいかない、これが絶対使命のはずです。1.5%しか放出していないということは株価のPKOはいくらでもできるとも言えます。これが一つのポイントではないでしょうか?
また、将来、外国市場での上場も視野にあります。最終的に何%まで市場に放出するかはわかりませんが、仮に今の10倍出しても15%であり、政府による会社の支配権は何ら揺るがないものでしょう。となれば将来の海外市場での放出を考えれば株価が上がるというイメージは作りたいはずです。このあたりは非常に政治的な展開をするものと考えています。
また、株価対策のみならず原油価格の維持が最も重要な課題となるはずで、サウジは原油価格維持のために踏み込む姿勢はよりあからさまになってもおかしくありません。
仮に原油価格下落⇒アラムコ株下落⇒配当減となればサウジを取り巻くオイルマネーが世界の投資案件に回りにくくなる点は押さえておいた方がいいでしょう。言い換えれば今までブラックボックスだったところが少し見えるようになるとも言えます。これも情報開示の流れの一環なのでしょう。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年12月12日の記事より転載させていただきました。