私の愛する岐阜県。そこは保守王国である。その岐阜県において『誰もやってないから格好良い!』と堂々と言い放つ男がいる。鹿島元気、平成元年生まれの若者である。この度彼から、彼が代表を務める『ビーチサッカーチーム、エラシカ岐阜BS』の紹介を依頼された。
鹿島氏には特別昔からサッカーの経歴で輝かしい結果や実績はなく、高校では学校にサッカー部が無かった為、高校時代から社会人サッカーで競技をやっていた変わり種だ。そんな彼が2017年に出会ったのがビーチサッカー、彼はその魅力に取り憑かれゼロからエラシカ岐阜を立ち上げた。
私は彼の話を聞いていく中で、自身のFC岐阜社長就任直後の心境を思い出していた。誤解されている方も多い気がするが、私はサッカー門外漢の身であった。Jリーグの試合をまともに見たのは、社長に就任した2014年シーズンのFC岐阜の開幕戦が初めてだったほど私はサッカー・Jリーグを知らなかった。
しかし私に『知らない』ことに恐怖はなかった。むしろサッカーを知らないからこそ既成概念に囚われず柔軟な発想が出来ると信じていた。実際私の社長在任中の施策は型破りなものが多くあった。もちろん失敗したものもあったが、手応えを感じるものも多々あった。
話を戻すが鹿島氏は、海のない岐阜県でビーチサッカーをすることを『アドバンテージ』と言い切るのだ。そしてビーチサッカーをいつかプロ化、つまりはビジネスとして成り立たせるという明確なビジョンを持っていた。私はいつの間にか彼の話に引き込まれ、エラシカ岐阜の練習見学に足を運んだ。
2月のある日曜日、極寒の中彼らは朝8時から練習をしていた。場所はサリオパーク祖父江内の祖父江砂丘、愛知県稲沢市、木曽川に隔てられた岐阜県との県境で彼らは練習している。彼らの練習は砂丘の掃除から始まる。もちろん自分たちが怪我しないためでもあるが、彼らの地域貢献への思いの1つの現れだと思う。
ここで練習時に鹿島氏から聞いたビーチサッカーのルール・特徴をおさらいしておく。
・選手は裸足
・5人制
・フットサル並みのコートの広さ
・12分×3回で一試合
・オフサイドなし
・交代無制限
・ペナルティエリアが広くGKの攻撃参加が鍵
・FKの際の壁は不可
・GKへのバックパス可能
ざっとこんなところだ。試合は乱打戦になり、2桁得点も珍しくないそうだ。また砂の上で全力プレーをするのは3~4分が限界で、交代前提で戦うらしい。11人制サッカーで見られる、自陣でボールを回すような時間はないアグレッシブさを強く感じた。
11人制サッカーで海外においてプロ経験のあるエラシカ岐阜の宇野選手はビーチサッカーについて次のように述べている。
11人制サッカーをずっと続けてきた中で、この先のセカンドキャリアや11人制サッカーで芽がでるのか不安が募る中、エラシカの練習を体験させていただき、衝撃を受けました。
まずは、サッカーよりも圧倒的に難しいということ。砂の上で行うサッカーでは、走ることもままならず、芝では当たり前のパス、ドリブル、シュートも簡単にはできない。浮き玉でコントロール、パス、シュートが不可欠なスポーツで、技術の高さと11人制サッカーにはない、カッコよさや魅力を感じました。
練習を見ていて鹿島氏がブログで語っていたビーチサッカーの魅力を思い出した。「砂浜で裸足で砂塗れになってサッカーをする、子供の頃にやったら絶対お母さんに怒られるじゃないですか⁉︎でもビーチサッカーはそんなやんちゃなことを自由に出来る。その開放感は格別です!」私はその言葉をすぐに実感した。ALSの動けない身でありながら、混ざりたくて心底うずうずした。
ここでエラシカ岐阜とFC岐阜との縁について触れておく。FC岐阜には社会人チームである「FC岐阜SECOND」というサテライトチームが存在している。かつて国体を制し、天皇杯の岐阜県代表を毎年争うチームである。セカンドに所属している選手たちは、当然トップチームに昇格してプロになることを夢見ている。しかし近年セカンドからトップチームに昇格した実績はない。
エラシカ岐阜には監督兼選手の角氏、前述した宇野選手を含めて5人のFC岐阜セカンド出身者が在籍している。11人制サッカーに挫折した選手たちに、鹿島氏はサッカーを辞める以外の選択肢を用意したのだ。そのことについて鹿島氏は次のように語っている。
サッカーをやっている子ども達が競技の選択肢としてサッカーだけでなく、ビーチサッカーもあったとするならば夢が広がりますよね。大人だってサッカーを挫折してしまった選手がビーチサッカーであれば日本代表になれるかもしれないです。より多くの人たちの居場所を作る為には、法人化し団体組織としてのちゃんとしたイメージを作りたいと考えています。
実際、元セカンドの橋詰選手は「チームとしても個人としても日本のトップレベルになる、そして見てる人を魅了できる選手になりたいです。」と第二のサッカー人生の夢を力強く語ってくれた。その他のセカンド出身の選手も、それぞれ新しい夢を持つことが出来ている。
鹿島氏の言葉の通りエラシカ岐阜はこの4月に『特定非営利活動法人エラシカ岐阜ビーチサッカークラブ』として法人化され、更に岐阜県サッカー協会にビーチサッカー委員会が設置されるそうだ。鹿島氏の居場所作りは一歩一歩前に進んでいる。
鹿島氏の右腕である、FC岐阜セカンド時代に国体優勝を果たした監督の角氏は、エラシカ岐阜についてこう語る。
鹿島代表のこれから先のビジョンやクラブへの思いに共感し、入団を決めました。今はワクワク感しかない状態ですので2人で色々な仕掛けを考えていけてます。エラシカ岐阜の知名度を上げ、サッカーには色々なサッカーがあるんだよって事を岐阜県の皆さんに知っていただきたい。1人でも多くこの先日本代表に絡んでいける選手を育成していきたい。知識も経験もない中、逆にそれをアドバンテージに今までにないビーチサッカー選手を育成していくチャンスと考えています。大学などと提携し色々な方面から砂の上で行うサッカーに必要なトレーニング、食育、走り方などを取り入れてトレーニングを行なっています。チームにプラスになる事は、すべて取り入れて今までにない地域密着型クラブ。オール岐阜を目指して頑張っていきたいです。
実際に角氏の言葉は実践されている。岐阜大学との提携で、選手のトレーニング中の体力測定や心拍数等、細かく計測して砂と通常のグランドでとの比較を行い、結果を導き出そうという研究である。まだ検証中だそうだが、いずれ論文となるそうだ。科学的根拠を示すことで砂の上でのトレーニングに付加価値を生み出して、彼らの運営するビーチサッカースクールをより高く売る狙いだ。
ビジネスという観点において鹿島氏は次のように語っている。
スポーツって(特にマイナー)よくボランティア気質要素が多くて、中々お金から逃げてくイメージがあるのですが僕は第一人者としてしっかりお金を生み出す仕組みも作っていきたいと考えています。
私の住む障害者の世界もボランティア要素が多分にある。その世界で私は『稼げる障害者のパイオニア』を目指している。その点において鹿島氏は同志である。
現在の岐阜県では様々なものの居場所・受け皿がないと聞く。例えば女子サッカーである。ジュニアのチームも年々減り、高校生となると受け皿はほぼ皆無で、競技を続けるためには他県に行かざるを得ない現実がある。これから先のエラシカ岐阜の道のりも決して平坦なものではないだろう。
それでも挑戦する鹿島氏の思いは次の通りだ。
ビーチサッカーはマイナーのアマチュア競技です。トップリーグがなくプロが存在しません。なのでチームを立ち上げてもプロ化するにはまだまだ先長い道のりだと感じていました。しばらくは選手たちは働きながらや学業をこなしながらのアマチュア選手が続くと思います。そう言った中で、ビーチサッカーに挑戦する事は選手たちの競技以外の生活に役立てばと思っています。きっと僕たちの選手はちょっとの事があっても、いろんな障がいを乗り越えてるのでメンタルが相当強いと思います。笑
鹿島氏の熱量は既に県外まで伝わっている。エラシカ岐阜には周りから『レジェンド』と呼ばれる長野県在住の46歳の選手がいる。このレジェンドこと木戸選手は8時からの練習に自宅を4時に出るらしい。元々エラシカ立ち上げ前にビーチサッカーのイベントで鹿島氏と知り合い、Facebookでエラシカ立ち上げを知り参加を決断したというのだ。
私は何故そこまでするのかを質問したところ彼は次のように答えた。
鹿島君と角君2人のリーダーシップでしょうか。鹿島君は行動力があり、角君は統率力があって、お互いがうまくコミュニケーションで制御しあえてるから、それがメンバーにも色々良い影響を与えていて良い勢いだったからです!また、ゼロからスタートしたこの若いチームに何かしら最年長の俺が貢献できる事があるんじゃないかなとも感じた事です。
鹿島氏はどんどん人を巻き込んで進み続けている。
今年も5月から東海リーグが開幕する。昨年は5チーム中3位であったが、今シーズン並びに未来への意気込みを鹿島氏はこう語る。「競技の面では”東海を制覇し、全国出場”、普及の面では”岐阜にビーチサッカーが誰でもできる環境”を作る、選手の面では”日本代表選手の輩出”を目標としています。」
更にこう続けた。
より多くの人たちにビーチサッカーを知ってもらい、子ども達の夢や育成になる存在になり、大人の新しい居場所となれば良いと思います。それが岐阜という町の新しいエンターテインメントになって、地域活性の一つになれば、育ててもらった町への恩返しも出来ると個人的に思っています。
FC岐阜と同じく地域活性を志す、鹿島元気とエラシカ岐阜の挑戦に心からエールを贈る。
『がんばれ!エラシカ岐阜!」
恩田 聖敬
エラシカ岐阜練習風景(YouTube)
この記事は、株式会社まんまる笑店代表取締役社長、恩田聖敬氏(岐阜フットボールクラブ元社長)のブログ「ALSと共に生きる恩田聖敬のブログ」2020年2月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。