安倍元首相は本当に世界一の政治家だったのか検証

安倍さんはなぜリベラルに憎まれたのか』の副題は『地球儀を俯瞰した世界最高の政治家』だ。また、本文中でも安倍さんは21世紀の最初の20年で最高の政治家だったと歴史で記憶されるだろうといったことも書いている。

そういうと、アベガーとか自称リベラリストを逆上させそうだが、冗談でなくそういうことだろうと思う。

拙著『日本の総理大臣大全』(プレジデント社)の巻末には、冷戦終結後の主要国の首脳のリストが載っている。

1990年代ということについていえば、EUを生んだジャック・ドロール委員長と中国経済の近代化を実現した朱鎔基首相が、経済統合と中国経済の市場化を成し遂げたということで断然、光り輝く存在であった。

しかし、21世紀になると、これはという政治家がいない。イギリスのトニー・ブレア(首相在任1997~2007)は、サッチャー路線が極端な新自由主義に流れたのを、リベラル・ソーシャリズム路線で修正して人気を得たが、アメリカのイラク戦争に付和雷同してみそを付けてしまった。

ドイツ社民党のシュレーダー首相も、やはり、リベラル・ソーシャリズム路線でドイツ経済を活性化したが、ロシアに対する極端な傾斜はいまや非難の的だ。その後任のアンゲラ・メルケルも、環境とか難民問題でリベラル路線を成功させたようにみえたが、極端な中国への入れ込みは在任中に軌道修正せざるを得なかったし、ロシアの天然ガスをあてにしての脱原発などのつけを世界は払っている。

フランスのサルコジ大統領とイギリスのキャメロン首相、アメリカのオバマ大統領の三馬鹿トリオは、リビアのカダフィ大佐を殺してアラブの春とか粋がったが、これが契機になってアラブ諸国は底なしの混乱だ。

中国も朱鎔基の慎重で思慮深い改革を窮屈に思って、胡錦濤主席は利権をあちこちばらまいてバブルを生じさせ、その矛盾を解消するために習近平首相は強国路線で国民の不満をそらそうとして失敗した。

中南米諸国は、新自由主義路線では御しきれず、どんどん社会主義政権の支配下になっているが、これもいずれも、バラマキに終始している。

トルコのエルドゥアン大統領の強権主義は政治的安定はもたらしているが、経済はよろしくない。

韓国では金大中は北朝鮮を甘やかしたものの、評判は悪くないのだが、あとはひどいものだ。

となってくると、やっぱり安倍晋三元首相こそが、21世紀最初の20年、おそらくは、第一四半世紀で最高の政治指導者だったということでいいのではないかと思う。

2012年の総選挙で政権の座に返り咲いた安倍首相が訴えたのは、「戦後レジームからの脱却」であり、オバマ政権との関係は大丈夫かと心配になった。しかし、安倍首相は米国議会演説などでそうした懸念を吹き飛ばし、安保法制の実現で頼れる同盟国であることを示し、最後は広島と真珠湾の相互訪問で締めくくったのだった。

トランプ大統領とは友好関係を保ちつつ多国間主義を貫き、「日本の外交政策に『ルールに基づく世界経済秩序の擁護者』という新たな役割を持ち込み、法の支配へのコミットメントを共有するアジアでの連携を追求した」、「安倍首相はトランプ大統領の変則的な行動を管理するために、「世界で最も成功した指導者」といわれ、「安倍さんは、そびえたつ存在だった。彼は、多くの米国人の、日本だけでなく、インド太平洋全体への見方を再定義した」「安倍政権下では、しばしば日本が米国を主導することになった。(米国が日本を主導してきた)何十年にもわたる慣行を逆転させた」ともいわれた。

そして、「インドの重要性を認識し、民主主義の立場から将来の中国覇権に対して均衡を保つ役割を担うと考え、組織的にインドの指導者らへの呼びかけを開始し、構想の中へと引き入れた」、そしてEUと自由貿易協定を結び、英仏とのインド太平洋地域での協力体制を実現した。

サミットでは、ヨーロッパ首脳とトランプ大統領が衝突した時には、安倍首相がまとめ役にならざるを得ないほどの存在感を発揮した。

サミットの通訳をしていた方は、「首脳たちに、言葉で表せない尊敬ーーとまでは言えなくとも、少なくともこの人は無視はできないぞ、という気持ちを抱かせた」「ここはシンゾーの言うことを聞いてみようよ」みたいな感じがあり、会場に安倍氏が登場するだけで、場の雰囲気がガラリと変わったのを、ブースの中でも感じ取ることができたと仰っていた。

米上院は7月20日、安倍氏を「世界の自由と繁栄、安全を促進するとともに、権威主義や専制に対抗する今後数十年の日米協力の礎を築いた偉大な友人」「一流の政治家であり、民主的価値のたゆまぬ擁護者」とたたえる追悼決議案を全会一致で採択した。

また、中国とは対決姿勢を示したが、習近平主席との個人的な関係は良好であった。それは中国の立場と面子を理解しての誠意ある助言を送り続けたからだ。

一方、内政は大改革に成功したとは言えないが、正しい問題意識で、改革にとり組み、なんとか上昇気流に乗せることには成功したと国際的に評価されている。復活の予感を感じさせたといったところだろうか。

この安倍首相と並ぶ評価だったのは、ロシアのプーチン大統領であった。エリツィンのもとでオリガルヒに食い物にされて大混乱に陥っていたのを治安も経済もめざましく改善させた。

しかし、なんでこうなってしまったのかはいろいろ意見があるだろうが、ロシアの復権を頑なに許そうとしない米国の民主党などに阻止されて、トランプ大統領にロシアと前向きの交渉を許さず、さらにバイデン政権になるや対決姿勢はエスカレートし、ついには、プーチンを暴発させるように追い込んだ形だ。

欧米的には、たとえば、追い込まれたとしても先に手を出したら負けなのだが、どちらにとっても馬鹿げた状況にある。

しかし、これも、安倍政権が続いていれば、安倍さんの出番はあったと思うし、少なくともトランプ政権が続いていれば戦争はなかったとも思う。