先の池田さんの記事へのコメントですが、字数の関係で記事にします。
現在は、資本移動も自由だし、金利規制もない(10%以上のインフレになると、利息制限法が制約になるが...)ので、3%とかいった緩やかなインフレで、政府債務の軽減を図れるとはあまり期待できません。これは池田さんもよく分かってらっしゃることですが、むしろインフレ期待の発生が財政破綻のトリガーを引くことになりかねないと考えられます。
すなわち、インフレ期待が生じると、既存の国債保有分については、インフレによる損失を回避するために、その前に売却しようという動きが生じることになります。これは、国債価格の暴落=長期金利の急騰につながります。投資家が、何もせずに、インフレによる債務の実質カットを甘受し続けることはありえません。
このことを避けようとして、日本銀行が買いオペをして代わりに現金を供給しても、インフレで価値が低下することが分かっている円をキャッシュのままで持ち続けようという者はいないはずですから、外貨建て資産や実物資産への転換が図られることになります。前者であれば、円安を招くことになって、輸入物価の上昇につながります。
こうしたことから、インフレ・スパイラルに陥る可能性が高く、安定的に穏やかなインフレ状態を続けることは難しいと思います。
かりに穏やかなインフレ状態が続くということになっても、その場合にも、固定利付きの長期国債の発行は難しくなります。物価連動債にするか、債務の短期化を強いられます。引き続き固定利付きの長期国債が発行できたとしても、フィッシャー効果で名目金利はインフレ期待分上昇しますから、借り換えと新規発行分の政府の負担は軽くなりません。インフレになると、税収が増える効果もありますが、歳出の名目額も拡大せざるを得ないので、財政赤字は続きますから、政府は国債の借り換えと新規発行を続けなくてはなりません。
ところが、インフレ・リスクが高まると、投資家の警戒感も高まることから、国債の入札に失敗するといった事態が起こる可能性も無視できなくなります。そして、国債の入札が不調に終わったといったニュースが流れると、ますます国債の借り換えと新規発行がしがたくなって、ついには政府の資金繰りがつかなくなり、公務員給与の遅配や(夕張市のように)病院のような基礎的サービスの供給にも支障が生じることが想定されます(これは、櫻川くんがちらっと言っていた財政破綻のシナリオ)。
要するに、むしろデフレ期待が支配的だからこそ、GDPの2倍もの政府債務を抱えていてもいまは「平穏無事」なのです。冗談でも、リフレ派のような主張はしない方が安全です。われわれの世代は、もしかすると「逃げ切れる」かもしれないのだから...(これは、本気か冗談か!?)
コメント
え~何度でもいいますが、あれは冗談です。
ただ、日本経済を停滞させている大きな原因は、個人金融資産の2/3を60歳以上の老人が抱え込み、しかも彼らの資産が死ぬとき最大になるという問題です。これをいかに動かすか、というのはけっこう大問題で、NIRAが生前贈与の減税を提案しましたが、財務省に「不公平だ」という理由で拒否されました。
もしもマイルドなインフレが可能であれば、こういう過剰貯蓄を動かす手段になる可能性もありますが、おっしゃるようにコントロールできる保証がありませんね。歴史的には中央銀行が引き締めに転じれば1年以内には収まるようですが・・・
この記事は非常にわかり易く、充分納得できました。不満があるとすれば、では何が一番良い解決策かのご提案がなかったことです。最新のECONOMIST誌のA fine balanceという記事で膨張する先進国の債務問題を特集しています。リチャード.クーの名をあげ、彼の何時もの、個人や企業の支出が無いときは国が代わって支出せざるを得ない、という主張が正しいと、ECONOMIST誌は支持しています。
ECONOMIST誌は何時も膨張する日本の債務については警鐘を鳴らし、無駄な公共事業を非難しますが、財政政策そのものの是非については非常にあいまいです。景気回復前の増税についても反対の立場です。結局、日本病に対する有効な処方箋を提示出来ないでいます。誰の目にも回復不可能なほど病状が進み手遅れということでしょうか。正しい処方箋があったとしても政治的リスクが大きすぎて実施不可能ということですか。池田さんのインフレ期待論もそこから来てる気がします。
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>池尾さん
「投資家が、何もせずに、インフレによる債務の実質カットを甘受し続けることはありえません。」
というのは確かにそうで、借り換え分については、インフレによる債務削減効果を受けられません。
しかし、既に発行済みの国債については、投資家は非インフレ期待で買っているので、騙す格好になりますが、投資化が債務の実質カットを甘受することになると思います。
これは財政破綻に近づくことを意味しないと思うのですが。
ある程度まで、インフレスパイラルが続くとしても、ありきたりなことを言い方をすれば、実質経済がきちんと存在して、構造的デフレの日本では、極端なことは起きないと思います。
いずれにしても、インフレで借金を踏み倒すなんていう邪道は、市場が忘れるまではしばらく使えないだろうし(すぐかもしれませんが・・・)、プライマリーバランスを黒字にするくらいの増税と歳出削減は必要になります。それも困難じゃないかという気がしますが。
借金が返せなくなって、さらに円が通貨としての価値を失うというのが、本当の財政破綻でしょうけど、円の相対的価値が高く、借金もまだ大きくなりすぎていない今なら、まだ解決しやすいような気がするので、あまり問題先送りすべきではないと私は思います。
>4.
ご指摘の通りで、一番きれいなケースでは、インフレ期待が発生した時点で国債価格の水準訂正(フィッシャー効果分のリターン上昇を実現するだけの価格の下方ジャンプ)が起こって終わりです。このとき、国債の保有者から政府への実質的な所得移転が起こることになります。問題は、そうした所得移転を強制された投資家がその後どういう態度をとることになるかです。少なくともインフレ・リスクへの警戒心を高めることになるでしょう。
なお、デフレとは国債バブルだというとらえ方があります。すると、デフレからインフレに転じるということは、国債バブルの崩壊を意味します。もしそうだとすると、きれいなケースでは済まないでしょうね。
--池尾
なんか池田さんのスタンスがこっち方面じゃない気がするので、ここで議論を続けてもいいのか分からないのですけど、
一番きれいなケースというか、まあ、例えば一番汚いケースを想定して、政府がインフレで棄損した分を補填するとか馬鹿なことを言ったりすれば、意味の無いことになりますけど、
そういうことにさえならなければ、少なくとも、インフレ分の債務削減はできるわけです。
国債の価値が大幅に下落したとなれば、個人向け国債なんかはまず売れなくなるでしょうね。
個人向け国債を保有している層が、債務超過のわけないので、国民の中でも所得移転が起こることになります。
(この辺りが、インフレ回避を続ける、政治的な理由なんじゃないかという気がしますが。)
実際には(当たり前ですけど)国債だけでなく、物価に連動しない全ての資産価値が下落するので、
国債を保有する銀行の経営が突然悪くなったりはしないと思いますが、固定費が負担となって、(賃金なんかは上げられないなら、上げなきゃいいのですが)経営は悪くなっていくでしょう。
長期金利の上昇を避けなければ景気を悪化させるので、日銀が何かしないといけないことになりますが、買いオペじゃなくて、なるべく政府から直接国債を購入する形にすれば、影響を少なくできますが、それでも現金資産の流出から、円安になるのは仕方ないのでは?というかこの国は円安気にしないような・・・。
輸入物価の上昇は確かに負担ですけど、円安になれば産業の空洞化を食い止められるし、悪いことばかりじゃないと思うのですが、
何より、このまま借金が増え続けて、利払いを続けるだけの、低福祉高負担の暗黒時代に突入するよりはずっとマシじゃないかと、私個人的には思います。
この債務問題について以下の疑問について、ご教授願えたら幸いです。
「日本政府の所有する資産が国債発行残高を上回っている」みたいな話は安心材料になります。しかし、「日本の個人金融資産残高を根拠に『日本は世界最大の債権国』だから、国債の信用度は保たれる」(この論理は野中広務氏の発言で初めて知ったのですが)みたいな話は一般市民として理解しがたいものがあります。
こうしたマクロ視点からは、国債発行残を減らさないでもいいのか?そうでなければ、個人金融資産を巻き上げて国債償還に充てるスキームを政治や経済学者が示すべきだと思うのですが如何でしょうか?
私は“適正価格”など無意味で、『合理的な?資本主義』の投資の世界で自活してきた投機家なので机上のインフレターゲット論には懐疑的でしたが、今回の先生の記事をみて、尚更この債務問題への関心が高まったので投稿しました。
>繰り返しますが、80年代イタリア、40年代アメリカではもの凄い勢いで積極財政をし、政府債務が増えましたが、別にハイパーインフレになんてなっていません。これが厳然たる事実です。
>ハイパーインフレは決定的な物不足にならない限り起こりません。是非、これまでのハイパーインフレの事例をお調べになって見てください。
>>国債発行により国民は将来の増税を期待します。これによる影響も勘案しなければ単純にGDP回復といくかなぁという気もします。
その説は、80年代イタリアの、すさまじい財政赤字とすさまじい政府支出の増加と、すさまじい公的債務増加の中で、しっかり名目でも実質でもGDPが伸びたという厳然たる事実に反します。
国債を刷れの作者 廣宮孝信氏のblogコメントに池尾先生の記事に対する上記反論がありました。見解お聞かせください。
私が勝手にコメントしていいのか知りませんが、
経済学は確立された科学ではないので、確実なことは何もいえないというスタンスではないかと思います。
たまたま、池尾さんの対談のこの記事を見つけましたので、URLを載せておきます。
http://www.rieti.go.jp/users/iio-jun/discussion/03.html
文中にもありますが、経済学者としての発言ではないと前置きされている部分が長いので、あしからず。
私の見解は、(誰も興味ないかも知れませんが)
リスクがあるから、というのはもっともなんですけど、じゃあ放置しとけばリスクが軽減されるわけでもなく、
むしろ、縮小均衡経済、借金の増加、日本の国際的地位の低下を考慮すれば、時間の経過と共に、リスクは増大する傾向にあると考えます。
もしそうなら、なるべく早くリスクを取るべきだし、タイミングとして今は悪くないのではないかと思います。
少なくとも今は需要に対して供給は十分(以上)だし、為替も円高になっているし、外貨準備高も十分にある、他の先進国も多額の財政赤字を抱えているのは国内資産の海外流出を防ぐ意味で好都合だし、今よりも良いタイミングは永遠に訪れないと思います。
危険なことをするなら、というか民主党がただお金が足りないからという理由で政府紙幣を発行して、勝手に財政破綻プロセスが始まってしまうかもしれないので、
どういった準備が必要で、どのようにコントロールするかの議論が必要なのではないかと思います。