「孫に財産を残したい」生前の祖父の願いが叶わなかった理由とは?(古尾谷 裕昭)

かわいい孫に財産を残そうと、祖父が孫名義の通帳を作成し預金する。よくありそうなシチュエーションですが、実はこの方法では祖父に万一のことがあったとき、孫に財産を残すことはできません。

「孫に財産を渡したい」という生前の意思を実現するためには、どんな方法が適切なのでしょうか? また、そのための準備はどのようにすればいいのでしょうか?

相続専門の税理士法人の代表税理士として、祖父母から孫への贈与の正しい方法について考えてみたいと思います。

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「孫に財産を残したい」生前の祖父の願いが叶わなかった理由

以前、こんなケースに遭遇しました。

Aさんはお父様が亡くなり、それなりに資産があったので、相続税申告をすることになりました。するとお父様の机の引き出しから、Aさんの子ども(亡くなったお父様の孫)名義の通帳が出てきました。

Aさんは「父は孫をとてもかわいがっていたのでお金を残してくれたんですね」と言います。しかし、この預金をお孫さんが相続することはできません。その旨をお伝えするとAさんは非常に驚いた様子です。どうしてお孫さんはこの預金を相続できないのでしょうか。

このケースのような預金を「名義預金」といいます。

「名義」という言葉には、「表面上・形式上の名称」といった意味があり、本当はその人のものではないことを表すために使われることがあります。例えば、「名義貸し」は他者の取引に際して、自分の名称や名前を貸して契約させることです。

名義のあとに「預金」がつくと、その預金の本当の所有者は、口座名のところに表示されている人ではないという意味になります。相続において問題になる「名義預金」は、口座名は亡くなった人の名義ではないのに、亡くなった人の財産とみなされる預金のことを指します。

さらに、民法において贈与とは、以下のように定められています。

民法第549条
贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。

贈与は財産をあげる側の単独行為ではなく、財産をあげる側が無償であげると意思表示し、もらう相手方が財産をもらったという認識をする必要があります。贈与を受けたあとは財産をもらった側がその財産を自分自身で管理・支配する必要があります。

Aさんのケースでは、通帳や印鑑は祖父の手元にあり、孫の自由になる状態ではないため、孫が孫名義の預金を管理・支配しているとはいえません。祖父が亡くなったときにこのような状態だと、名義預金とみなされ祖父の相続財産となります。

預金を贈与するときに押さえるべき4つのポイント

そして残念なことに、孫はこの預金を相続することができません。なぜなら、孫は祖父の相続人ではないからです(養子縁組をしている場合、代襲相続の場合を除く)。この孫名義の預金は、祖父の相続人の間で遺産分割協議の対象とされ、相続人の誰かが相続することになります。祖父の孫を思う気持ちは、孫に届かなくなってしまうのです。

では、贈与として認められるためには、どうすればよかったのでしょうか。預金を贈与する際の主なポイントは、以下の4つです。

預金を贈与するときのポイント

  • 口座開設書類に名義人本人が記入して口座を開設する
  • 名義人本人が通帳、印鑑、キャッシュカード等を管理する
  • 印鑑は受贈者が持っているものにする
  • 贈与契約書を作成する

贈与資金を送金する口座は、できることなら新たに作成するのではなく、贈与を受ける人が普段使いしている口座にした方がよいでしょう。普段使いの口座であれば、「贈与契約書を作成する」以外の上記のポイントを満たすことができますので、あとは贈与契約書を作成するだけです(110万円を超える贈与の場合は贈与税の申告も必要です)。

名義預金とみなされないように対策をすることは、相続税申告の観点からも大切です。通常、被相続人名義の預金でなければ相続財産には含まれず、相続税の計算対象となりませんが、実質的に預金の所有者が被相続人であるのに、名義が違うからといって相続財産に含めないと、本来の相続税額よりも少なくなってしまうことになります。

税務署は税務調査の際に、名義預金がないか、疑われる口座についてはキャッシュカードの暗証番号を名義人が知っているか、ネットバンキングに名義人がログインできるかなど詳細にチェックします。財産をあげたい相手へ意思通りに財産を贈与するためにも、税務調査対策のためにも、上記のポイントを守ることが大切です。

無駄遣いを防止できる贈与方法

そうとはいうものの、やはり無駄遣いをしてしまうのが心配という方は、贈与したお金で贈与を受けた人自身が生命保険に加入するという方法があります。このときの保険は個人年金保険と死亡保険があります。

個人年金保険とは、60歳や65歳など一定の年齢まで保険料という形でお金を積み立て、老後に積立金をもとに年金をもらうという仕組みの保険です。贈与を受けた人自身が保険契約者(保険料負担者)、被保険者となって保険契約をし、保険料の支払いは贈与を受けた口座から行います。このような保険を組むことで、無駄遣いできない形で財産を残すことができますし、名義預金となってしまう心配がありません。

ただし、この場合であっても、贈与を受けた人の通帳を贈与する人が預かってしまっては名義預金となってしまいますので注意してください。

贈与した人が亡くなった後は、保険料支払いのための贈与は止まりますので、その後は贈与を受けた人が自分で保険料を払い続けるか、解約するか、いずれかを選択することになります。解約した場合、または払い込み終了後に一時金として受け取る場合は、一時所得となり、払い込み終了後に年金として受け取る場合は雑所得となります。

死亡保険契約を選択した場合、贈与を受けた人を保険契約者(保険料負担者)とします。被保険者が死亡すれば贈与を受けた人へ死亡保険金が支払われます。一時金として受け取る場合は、一時所得となり、年金として受け取る場合は雑所得となります。

まとめ

贈与をする場合は必ず上記のポイントを守るようにすることで、税務調査対策になりますし、生前に贈与をしておくことで相続財産を減らすことができるため、相続対策にもつながります。

子であれ孫であれ、この人に財産を渡したいと思うのはその相手を大切に思っているからに他なりません。Aさんのケースでは、分割協議にてお孫さんの父親であるAさんが預金を相続し、孫のために使うという形で落ち着きましたが、相手を思うその気持ちがしっかり伝わるように、贈与と認められる正しい方法で行いたいものです。

古尾谷 裕昭 税理士 ベンチャーサポート相続税理士法人代表税理士
1975年生まれ、東京都浅草出身。2017年にベンチャーサポート相続税理士法人設立。相続専門の司法書士・弁護士・行政書士・社会保険労務士・不動産会社・保険販売代理店・金融商品仲介業者からなるベンチャーサポートグループの中核を担う「ベンチャーサポート相続税理士法人」を代表税理士として率いている。約9.5万人のチャンネル登録者数のYouTube『相続専門税理士チャンネル』を運営。

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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2022年12月2日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。