国家間のM&Aは幻想か、現実的か?:力ではなくマネーによる支配へ

馬鹿々々しくてこんなことをまともに言う人も考える人もいないでしょう。国家間のM&Aです。では本当に幻想話なのか、考えてみましょう。

Lidiia Moor/iStock

ロシアは18世紀から19世紀にかけ、シベリアからカムチャッカをへてアリューシャン列島まで毛皮になる動物を探し求めていました。そもそもシベリアは未開の地であり、「東に行くと何があるのだろう?」というレベルでした。シベリア東部の最果てとアラスカは「繋がっているのではないか?」と見られていたのですが、そこに幅90キロの海峡があるのを発見したのがロシアの探検家ヴィトゥス ベーリングで彼の名前が今の海峡の名前になっています。

19世紀半ば、ロシアはクリミア問題など西部ロシアの政策運営にほとんどのエネルギーを取られていたため、東部ロシアの存在は「毛皮で儲ける」程度にしか考えていませんでした。そんな中、ロシアは財政難に陥ったため、明治維新の前年である1867年、ロシアはアメリカと交渉し、アラスカを720万米ドル(直接換算で9億4000千万円)の破格でアメリカに売却したのです。それでもアメリカ議会ではこの買取を決定する際、議会では「冷蔵庫をこんな大金を払って買うのか?」という議論が巻き起こったのです。

国家とは一定の領土と国民を従え、秩序に基づき統治される固定の場所に存在する政治的共同体であります。領土は大きい方がよいと考えるのは神から授けられた大地であると考えると宗教的ではありますが、本質的なのだろうと思います。直接的には経済的便益の拡大でありましょう。

一方、欧州などで見られる小国の分離独立化は民族主義やそれを背景とする複雑な歴史が要因であります。では小国が独立して食っていけるのか、と言えば資源があるか、農業など第一次産業があるかは重要です。何もない小国では国家を形成し、世界の水準に合わせて成長させることが難しくなります。なぜなら国家は現代社会においては貿易をせず自給自足経済は極めて困難であるからです。

生産活動には人口を背景にした労力も求められます。何百年も前ならともかく、近代化した現代においては大なり小なりのインフラが整備され、医療や社会保障を少しずつでも拡充させ、国民を養うべく政府部門は確実に大きくなります。それは歳入の拡大が伴うという前提があり、企業や国民からの税収入がその基本になります。ただ、ざっくり言うなら企業からの税収は割と知れており、基本は国民からしっかり吸い上げるというのが概ねどこの国でも躍起になっている方法です。

では国民から吸い上げるべく税収が少子化で減少した場合、政府部門はどうやって維持するのか、これが今後数十年のうちに大きな課題になるはずです。そして、それが出来なくなった国家がとる方法は二つあるのだと思います。破綻し、IMFあたりに支援を求めるのはごく一般的ですが、私は国家の一部、ないし全部を売却するということもアリではないか、と思うのです。

中国とスリランカの関係を見ていると中国株式会社がスリランカ株式会社に港湾施設開発資金をローンするも、その返済に滞ったので借金のカタとしてその施設を中国株式会社が実質運営し、収益により貸金を回収するという構図は通常の企業間取引と何ら変わりないとも言えます。

これがもう少し高じた場合、中国株式会社は土地の割譲とか、スリランカ株式会社に役員を派遣し、実質的に支配することもあり得るでしょう。それはその会社(=国家)の決め事でしかないのです。日本にGHQがきた時も考え方としては管財人と大して変わらないわけです。日本の場合はおよそ7年間で再建が完了したのでアメリカは出て行った、と言い換えられます。この再建がうまく出来なければずっと居座ったかもしれません。

コロナ後、破綻国家あるいは実質破綻の国家は相当出てきています。支援はIMFのような「公的支援」の手法もありますが、「私的再生」もないとは言えないのです。

かつて「カナダはアメリカの一つの州だ」と言われたことがあります。アメリカ人の驕りでもあり、無知振りでもあったわけですが、アメリカとカナダはそれぐらい一体化しています。国家としてはもちろん違うし、それぞれのアイデンティティを持っていますが、多くのカナダで活動する企業はアメリカ資本だし、メディアを含め、文化はかなり一体化したところもあります。株式市場を見ているとアメリカかカナダが祭日の日は取引件数がぐっと落ちます。アメリカが祭日の日はカナダのクルマの量が減ります。アメリカで発行された米ドル建ての小切手はカナダの銀行でカナダドルに換算して入金出来ます。つまり政治は別だけど経済や生活感は割と一体感があるのです。

その点ではユーロ圏も似たようなところがあり、政治的独立はしているけれど他の部分はユーロ圏というかたまりと考えてよいでしょう。

こう見ると国家のM&Aこそまだないですが、より深化した国家の関係、一体感というのは今後、より進んでくると思います。日本では考えにくいですが、言語が共通のエリアである中南米のスペイン語圏は関係深化はあるだろうし、ブラジルとアルゼンチンが共通通貨構想を打ち出したのも経済圏としてはウルグアイを含め深い関係が歴史的に構築されているともいえそうです。

国家間のM&Aなんてばかばかしい話ですが、支配関係が戦争など力による時代からマネーによる時代に代わったと考えれば何一つ驚く話でもない、とも言えそうです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年3月3日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。