アップルのアイフォンは消えても、ルイ・ヴィトンのバッグは無くならない

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ブランドビジネスの王者に君臨するモエヘネシー・ルイヴィトン(LVMH)のベルナール・アルノー氏(画像をブログで見る)が、アップルの創業者でアイフォンの生みの親、故スティーブ・ジョブズ氏と会った時の話を日本経済新聞で知りました。

アイフォンが30年後も使われていると思うかと聞かれて、ジョブズ氏は「わからない」と答えたそうです。

逆に、LVMHが取り扱う高級シャンパンドンペリニヨンについて同じ質問に、アルノー氏は「今後何世代にもわたって飲まれ続ける」と断言。

ジョブズ氏もそれに同意したというエピソードがあります。

アップルの製品にもオタクなファンはいますが、多くの消費者は利便性に価値を感じ使っています。

もし、テクノロジーの進化で、もっと便利で安いデバイスが生まれれば、アイフォンはあっという間に時代遅れなものになって、世の中から消えてしまうでしょう。

一方の、LVMHの展開するブランドビジネスには、熱狂的なファンがついています。

例えば、LVMHの代表ともいえるルイ・ヴィトンのバッグを使い勝手が良いという理由で選んでいる人はほとんどいないと思います。

「ルイ・ヴィトンだから」というのが多くの人の選択理由ではないでしょうか。

シャンパンも同じです。確かにドンペリニョンは美味しいと思いますが、他にも素晴らしいシャンパンはたくさんあります。ドンペリニオンブランドに価値を感じている愛飲家が大半だと想像します。

タレントやミュージシャンもファンあってのビジネスですが、彼らは生身の人間で、年老いていき、いつかは引退します。でも、ブランドは老舗になっていくだけで、年老いることはありません。時代に合わせてデザインを修正し、最高レベルのデザイナーを起用することによって、長期間にわたりブランドイメージを維持することが可能です。

その歴史が、さらにブランドとしての知名度を高め、価値を高めることにつながるのです。

このように考えると、LVMHのビジネスモデルは、極めて強固なものと考えることができます。テクノロジーによる技術進歩とは、関係のない世界に存在しているからです。

唯一の懸念は、アルノー氏亡き後の会社の経営を誰が行えるかです。

アルノー氏の5人の子どもは、全員がグループ企業で働いているそうです。世襲による後継者が果たして企業価値を維持できるのか。ブランドは生き残っても、LVMHという企業が生き残るかどうかは別問題です。


編集部より:この記事は「内藤忍の公式ブログ」2023年5月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

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資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。