経済的自由を求めてFIREする人たちの「想像したくない未来」

SNSの投稿を見ていると、相変わらずFIRE(Financial Independence, Retire Early)に憧れる若者が多いことに驚きます。資産を構築して、経済的な自立を実現し、若いうちに仕事をリタイアするライフスタイルです。

資産数十億円を投資によって築き、配当生活をしている自称FIRE成功者の投稿には、たくさんのアクセスが集まっています。

仕事を辞めて、株式運用によるキャピタルゲインや配当、あるいは不動産の家賃収入などで生活していくFIREは、時間の自由もあって毎日会社で仕事をしている人からすれば、羨ましく見えるのはよくわかります。

しかし、これから10年、20年といったスパンで考える場合、若いうちにFIREするのは絶対にやめた方が良いと思います。

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まず、現在の資産運用の環境がこれからもずっと続くとは限りません。株式市場が大きく調整することもあるでしょうし、無配に転落する業績不振企業も出てきます。不動産もこれから空室リスクが高まれば、家賃収入は期待したほど入らなくなります。

また、資産運用の環境だけではなく、経済環境にも変化があれば、自分の資産は実質ベースで目減りする可能性があります。そのリスクは、円安とインフレです。

既にインフレ率は日本国内でも年率4%を超えるレベルになっており、貨幣価値の下落によって資産価値が毀損しています。円安になれば、円の家賃収入は実質的に減少することになります。

さらに、地震や火山噴火のような天災や、隣国との軍事衝突といった予測できない地政学リスクもあります。

これらのリスクに資産運用だけで数十年にわたって対応していくのは、簡単ではありません。

資産数億円程度でFIREした人の多くには「想像したくない未来」が待っていることになるでしょう。

もう1つ知っておくべきことは、FIREは「片道切符」だということです。

仕事を離れる期間が長くなればなるほど、スキルが低下し、経歴にブランクがあることから再び就職するのが難しくなります。FIREをやめて仕事を再開しようと思っても、もう以前のような収入が得られないのです。

そもそも、FIREしてしまうと社会との接点が一気に少なくなります。最初は気ままで自由な生活を謳歌できるかもしれません。でも、やることのない自由すぎる時間は、いずれ持て余して苦痛さえ感じると思います。

資産運用を若いうちに始めて、お金の制約から解放されるのはとても良いことです。

でも、経済的自由を手に入れたとしても、やめて良い仕事は、お金のために働く「ライスワーク」だけです。

自分の好きなことを仕事にする「ライフワーク」は決して手放してはならないのです。


編集部より:この記事は「内藤忍の公式ブログ」2023年7月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

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資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。