黒坂岳央です。
健康意識の高まりを受け、昨今あちこちで筋トレブームが起こっている。これは単なる印象ではなく、事実である。公益財団法人笹川スポーツ財団の調査によると、2022年には約1,640万人が筋力トレーニングを実施し、これは2000年と比較して2倍以上の増加となっているデータがあるのだ。筆者の住む街でもあちこちで廃業店舗後にジムができている。
だがそんな筋トレブームの裏側で大変多くの挫折者を産んでいる。Sperandei S, J Sci Med Sport, 2016によると、フィットネスジムの継続率は、開始から3ヶ月後で37%、1年後にはたった4%未満まで減少する。100人始めても1年後残っているのはわずか4人以下しかいない。
自分自身、本格的に筋トレを始めて半年前後でしかないが、自己体験を経て筋トレ継続の難しさを言語化することに挑戦したい。
1. 知識不足
筋トレが継続できない最大の理由は知識不足である。合格したら終わりにできる資格試験などとは違い、多くの筋トレは基本的に一生続く目的を持って始めることが多い。健康寿命の伸長やウェイトコントロールなど、生きている限りずっと続ける想定で始める場合がほとんどだろう。それなのにわずか1年も継続できない人が96%もいる。
辞める理由はスタート前の「ここまでやればこういう結果になるだろう」という期待値を超えられなかったと考えることが可能だ。美しいプロポーションを目的に始めるも、思ったようにお腹が引っ込まないとか重量を増やせないといった失望が継続を断念させている。
これら期待値と現実のギャップにおいて、主要因は知識不足で説明がつく。筋トレはシンプルなようで、実際は多面的なパラメータを考慮する取り組みである。腕を太くするならダンベルの重要だけでなく、正しいフォームや良質なタンパク質を含む食事、見えにくいインナーマッスルへの考慮や健全なメンタリティなどである。そういう意味で正しい方法論で反復するだけで突破できる多くの資格試験以上にクリエイティブかつ、意識を配るべき変数を多く含む難しい活動である。
筋トレの継続には辛さに耐えるメンタルタフネスだけでなく、盤石な知識理解も必須である。それを裏打ちする「学歴と継続率は比例する」と主張する論文もあるほどだ。
「とりあえず重いものを持ち上げとけばその内伸びる」といった無理解な先入観が多くの挫折を出しているのではないだろうか。
2. 通い続ける難しさ
東京圏など、住宅事情の制約が厳しい地域においては自宅ではなく、多くはジム通いが前提となる。否、住宅事情が許しても「家だとついサボる」という心理的ハードルを乗り越えるために、家が広くてもあえてコストと時間という投資をする目的でジム通いを選択する人も少なくないだろう。
しかし、通い続けることには難しさがある。自分も一時期、ジムに通ってみたことがあるが、いくつものハードルがある。
ジムにいっても筋トレというしんどい要素しか待っていない。移動に時間もエネルギーもいる。マシンの順番待ちがある。着替えやタオルなどの準備が手間だ。正直、基本的には何一つ楽しい要素はない場所へ、忙しく仕事をした後に通い続けられる胆力の持ち主はそうそういない。
ジムに通うという強制力をもたせても1年後、96%が挫折してしまう。自分自身、効率性を追求し続けて結局行き着いた答えが、自宅にジム専用ルームを作ることである(あくまで住居が広い地方在住者だからできているのだが…)。
3. 効果が実感できない
これは1の知識不足にも共通するポイントだが、「効果が実感できない」という点はあまりにも大きい。よって別枠で挫折理由として取り上げたい。
資格試験なら模擬試験のスコアが上がっていくなど、工夫すれば効果検証を入れる事が可能である。だが、筋トレの場合、たとえ正しいフォームで継続しても個人差はとても大きい。さらに客観的指標で効果検証が難しい。せいぜい、「1ヶ月前よりさらに重いダンベルを持ち上げられるようになった」といった抽象的で主観的データしか拾えない。鏡の前で力を入れてみても、自分ではそうそうわからない。といっても人前で見せても表面的なお世辞が返ってくることは明白である。辛さに耐えてわかりやすく効果が実感できなければ、より有意義な活動に貴重な時間を投下したいと考えて挫折する心理はよく分かる。
自分の場合、細かくデータを取って分析し、日々フォームを研究してアップデートを重ねているので「このまま継続すれば間違いなく結果は出る」という確信があるからこそ続けられるが、そこまでする人は少ない。なんとなく続けて1年後も生き残っていると考える方がむしろ不自然に思う。
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現在は空前の筋トレブームである。多くの初心者が挑戦し、そして挫折していく。その理由は複数あるが、「最初に正しい知識をつける」これこそがファーストステップになるだろう。なんとなく始めても絶対に継続はできない。1年後生き残っている4%は筋トレ理解をしている人たちは、筋トレを学び、理解し、改善を続けているだろう。筋トレ開始前に抱く印象とは裏腹に、実は大変難しい活動なのである。
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