NOTTVが遺したもの

中村 伊知哉

本日2016年6月30日、NOTTVがサービスを終了します。アナログテレビ放送の跡地、V-high周波数帯を利用して、NTTドコモグループが2012年4月にスタートしたスマホ向け放送サービス。

あるメディアに、コメントを求められたので、こう答えました。

終了の発表は2015年11月。同年3月期に503億円の損失を計上し、採算ライン300万人とされるところ、10月時点で147万人加入に留まっていました。

ドコモの体力からすれば続けることはできただろうに、好転のめどが立たなくなったと判断したこと、とはいえ放送というインフラ事業の中止には慎重を要したことからみて、妥当な時期での撤退だと考えます。

NOTTVが苦戦したのは、ハード面・ソフト面の双方に理由があります。

ハード面は、端末機種の不足の問題です。

ワンセグと同様に放送波を使って配信するため、視聴するには端末側の対応が必要。しかしドコモ対応のAndroid機種しかチューナーが搭載されず、周波数割り当て時の政治的な問題も響いたせいか、ライバルKDDIの協力が得られませんでした。

ソフトバンクも力を入れるiPhoneに対応しないうえ、MVNOの格安スマホも対応せず、ドコモの販売数に占めるNOTTV対応端末の割合は3割程度となっていたといいます。

もう1つはソフト面。サービスの内容です。

NOTTVはワンセグより高品質というふれこみでしたが、競争相手はそこではありませんでした。YouTube、ニコニコ動画、さらにはドコモ+AVEXによるdTVなど通信による動画サービスが普及していました。

さらにhulu、Netflix、AbemaTVなど強力な映像サービスが登場しました。NOTTVは編成型リアルタイム放送モデルですが、VOD型が主流になっていたという面もあります。

動画は放送波が適しているという目論見も、無線LANやLTEの普及で、通信回線でも十分に楽しめるようになったという点も大きい。映像サービスの環境があっという間に変化し、展望が狂ったということです。

「通信」会社主体の「マルチメディア放送」と銘打ちながら、ワンセグのような「スマホ向け放送」だったので、新味性には欠けていました。

(その点、V-Low周波数帯で始まったTFM系の「i-dio」は、逆に「放送」会社が行う「通信」的なサービスで、ビジネス面は未知数ながら、マルチデバイス向けのメディア融合サービスや電波貸しサービスなど、新機軸が期待されます。)

ただ、豊富な資金力とインフラを持つ通信会社と、コンテンツ制作力のある放送局とが連携して新事業に望んだという実績は大きい。今後も通信と放送の連携による取り組みは形を変えて現れるでしょう。

撤退で穴の空いた電波をどう使うかが残された課題。同様の用途に使うことはありますまい。割り当てた行政にも責任はあります。切り替えるためにも、従来から議論になっている「周波数オークション」を試験的に導入してみてはどうでしょうか。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2016年6月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。