最近の暑さは異常である。世界の温室効果ガス排出量は減っているのに、気温が急上昇するのはなぜか。その原因はエルニーニョだと言われているが、海流だけでは説明できない。
これを説明する論文がたくさん出てきたが、注目されるのはほとんどがエアロゾルの効果を計算に入れていることだ。
大気汚染は地球寒冷化をもたらす
まず観測データを見てみよう。EUの観測機関によると、2020年春からSOX(硫黄酸化物)の大気中濃度は1/5に激減した。これはロックダウンで経済活動が止まり、大気汚染が減ったためだ。
SOXの大気中濃度
化石燃料の影響は温室効果ガス(GHG)と大気汚染(SOX)にわけられるが、この二つは相反する効果をもたらす。GHGは温室効果で気温を上げるが、SOX(エアロゾル)は太陽をさえぎって気温を下げる。この効果は昔から知られており、IPCCの指導者シュナイダーは1971年の論文で地球寒冷化を予告した。
大気汚染は今後50年間で6~8倍に増加すると予測されている。この注入速度の増加により、大気の不透明度が4倍に上昇し、地球の温度が3.5℃低下することが予想される。これは氷河期をもたらすのに十分である。
この計算は正しかったのだが、その後の公害対策で大気汚染は大幅に改善され、氷河期は来なかった。その影響はよくわかっているが、それを議論したのはクーニンなど少数の「温暖化懐疑派」だけだった。
化石燃料による温暖化と寒冷化の影響(Koonin)
温暖化が加速した原因は大気汚染の改善
最近はこれをGHGの影響と分離するシミュレーションが、Natureなどの学術誌に数多く出ている。その共通の結論は、2010年代以降に地球温暖化が加速した原因は、中国が石炭の消費を減らすなど、大気汚染が改善されてエアロゾルが減ったことだというものだ。その代表として、今年4月のNatureに掲載された論文を見てみよう。
最近の気温上昇の要因分解(Hodnebrog et al.)
図の折れ線は衛星観測データで、そのトレンドが黒の実線である。この24年間にグレーの線で描かれているようにGHGは減ったが、地上の照度は10年間で約0.8W/m2上昇したため温暖化した。
この矛盾を説明するのが、図の赤線で示した大気汚染(エアロゾル)である。空気がきれいになって透過度が上がり、地上の照度が上がってGHGによる照度低下のほぼ40%を相殺した。
では国連などが推奨しているように「ネットゼロ」つまりGHG排出量を2050年までにゼロにすると、どうなるだろうか。昨年11月のNature論文によると、世界各国の気温上昇は次のようになる。
2050年ネットゼロによる世界各国の気温上昇(Wang et al.)
もしネットゼロが実現したとすると、2050年にGHGによる気温上昇は0.1℃未満になるが、エアロゾルが減って世界平均で1℃以上も気温が上昇する。つまり化石燃料を減らすと地球温暖化は加速するのだ。
「気候工学」のコストは脱炭素化の1/2000
これは最近の研究の一致した結論だが、どうすべきかについては意見がわかれる。化石燃料を温存して脱硫装置をはずし、大気汚染を増やすのが簡単な解だが、これでは呼吸器系疾患が増え、年間100万人以上が死亡する。大気汚染は温暖化よりはるかに重要な問題なのだ。
大気汚染を減らしてエアロゾルを増やす唯一の方法は、航空機で成層圏にエアロゾルを散布する気候工学である。そのコストは毎年22.5億ドルと、ネットゼロの1/2000だ。
これはビル・ゲイツなど多くの専門家が提言しており、効果に疑問はない。危険な実験だという人がいるが、もし弊害が出ればすぐやめられる。何兆ドルも費やしてサンクコストになる脱炭素化よりよほど賢い政策だろう。
問題は政治だけだが、バイデン政権は小規模な実験を容認している。いざとなったらこうして温暖化はいつでも止められるので、脱炭素化に莫大なコストをかけるのはは愚かである。それは緊急の問題でもないので、ネットゼロなどという目標はやめるべきだ。