今年4月1日、ビルマ(ミャンマー)で補欠選挙が行われました。選挙の結果、議会の45議席が争われ、アウンサンスーチー率いるNLD(国民民主連盟)は43議席、軍の傀儡政党USDPは1議席、SNLD(シャン民族民主戦線)も1議席の獲得となりました。今回の選挙は軍政が1議席を得たとはいえ、選挙の結果自体に対する当局の介入はなかったとされています。
マスメディアの報道では、今回の選挙は公正であったと報道されていますが、実際には軍政が行ったとされるいくつもの不正が人権団体によって報告されています。軍政は改革の姿勢を世界にアピールしながらも結局やっていることは改革前と変わっていないのです。行われた不正を以下にリストアップしました。
・NLDの候補者への投石。
・候補者のポスターが剥がされる。
・投票用紙にロウソクのロウが塗られうまくマークできないようにする。
・死亡者が有権者リストに入っている。
・生存しているにも関わらず有権者が登録されていない。
こうした不正の例を見ると、軍政が未だに民主化に向けて積極的であるとはいえず、報道されているものとは大きく違うことが伺えます。これのどこが民主的であるのか大変理解に苦しむところではありますが、オーストラリアや欧米諸国は相次いで歓迎コメントを発表し、選挙が民主的であったとしています。これに対してアウンサンスーチーは「選挙は平等でもなければ公正でもない」とコメントを発表しました。繰り返しますが、不正の事実はいくつもの人権団体から発表されていることで、決してアウンサンスーチー一人が訴えていることではありません。
また、人権侵害も止んでいません。今もなおカチン州・シャン州の軍隊と国軍は戦争を続けており、未だに終結を見ていません。ビルマ国内に多くいる少数民族は独立を求めて国軍との戦闘を長期間にわたって続けており、カレン州は60年以上も戦闘を続けています。その影響で多くの難民が発生しており、カチン州だけでも7万5000人もの人々が家を奪われ、国境地帯に逃げ込んでいます。タイとビルマの国境地帯の難民キャンプには15~20万人の難民が住んでいるとされています。国軍が国境を超えて難民を攻撃するケースも相次いでおり、被害は国内に留まっていません。少数民族の住む地域には多くの鉱産資源が眠っているとされ、それを手放したくない軍政は彼らの独立を防ぐために攻撃を続けています。
多くの政治犯が未だに収監されている事実も看過してはなりません。軍政は改革の姿勢をアピールしようと政治犯の釈放を行なっていますが、未だに数百人とも1500人以上とも言われる政治犯が自由を奪われているのです。国際社会は政治犯の解放を「改革の証拠」として、歓迎していますが、これは多くの罪なき人々の存在を無視することであり、決して許されるべきことではありません。
子どもと女性を含む強制労働の問題は特に重大な人権侵害として注目されています。ポーター(荷運び役)として酷使され、強制労働に従事させられたり、無償労働をやらされたりします。女性が強姦に遭うケースも少なくありません。死に至る場合も多くあります。戦闘の際には「人間の盾」として使われたり、軍の先頭を歩かせたり、地雷原を歩かせることもあります。これらは全て戦争犯罪として国際的にも非難されています。
子どもが兵士にされている事実も見過ごすことは出来ません。村あるいは町ごとに徴兵の数を割り当て、応じなければ罰金を課す形で子どもが兵士に仕立て上げられます。暴力を伴う形での強制的な徴兵も多く報告されています。貧困を理由に兵士にならざるをえない子どもも多くいて、親の代わりに入隊する子どもも多くいます。
>>Human Rights Watchのサイトでは人権侵害に関する証言がまとめられています。
これらの国際人道法、国際人権法に明確に違反しながらも、今でも続く重大かつ広範囲にわたる人権蹂躙の事実に鑑みると、国際社会のビルマに対する姿勢の軟化は如何に人権を軽視したものであるか、よくわかります。上に挙げたものは全て過去の事実ではありません。現在まさに起こっていることなのです。確かに、ビルマに投資をすることで現地の人々の経済水準が改善するかもしれませんが、軍政に甘い態度をとるのとは別問題です。軍政には引き続き本格的に民主化に取り組むよう強く訴えかけながら、如何にビルマ人の貧困を解決するか、我々先進国はさらに模索していく必要があります。
<参考文献>
ビルマ連邦連合政府、1992『ビルマの人権』明石書店
田辺寿夫、根本敬、2003『ビルマ軍事政権とアウンサンスーチー』角川書店
Human Rights Watch – “ビルマ:受刑者『ポーター』使用は戦争犯罪”、“ビルマ:改革 カチン州には及ばず”
坂田 航
学生ブロガー
Twitter@Watalogy
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