日銀がようやく利上げしました。上げ幅0.25%。私は市場に忖度して0.10%ぐらいの軽いジャブを入れる可能性も考えていましたが、植田総裁の記者会見からの発言はタカ派的な感じも見受けられました。様々な報道がなされているのですが、今回の重要な政策変更についていくつか気になる点があります。
- なぜ、前夜に利上げ情報が漏れたのか?
- なぜ、一部の記者団や専門家がサプライズだと感じているのか?
- なぜ、利上げをネガティブにとるのか?
- なぜ、日経平均は後場に急伸したのか?
- 金利は今後も上がるのか?
- 為替はどこまで修正されるか?
前夜に利上げ情報がリークしたのは3月の時も同じ構図だったので植田総裁か政策委員か日銀幹部が市場との水面下でのコミュニケーションを図ることでショックアブソーバー的な役目を果たそうとしたのではないかと思います。もちろん、利上げ情報がそのままリークされたわけではないと思いますが、暗示を受けての報道各社の推察的報道だと思います。個人的にはこれは以前のサプライズ感に反感があったことから日銀によるつまらない配慮で、極めて日本的な「根回し」の一種だと思います。
記事を読む限りメディアは今回の利上げを「よくやった」という感じでは捉えていません。むしろ与党あたりからの外圧で日銀はそれに負けたのではという声すら上がりそうですが、個人的には違うと思います。あくまでも私見ですが、黒田前総裁が壊した金融政策を植田総裁が元に戻しているだけだと思います。黒田氏のことを評価する声が多いのは知っていますが、私は相当評価が低く、個人的には平成の鬼平、三重野康氏と真逆ながら金融悪政の親玉ぐらいに思っています。
失われた〇年の根本理由は金融政策で飴玉となる超低金利政策を維持したことで「ムチ打ちの刑の恐怖症」に陥り、長期にわたる「ぬるま湯金融政策」をとったことは否めないのです。日本経済が世界の中で凋落した理由はバブル崩壊で体力を失ったことと同時に金利に抵抗する「筋力」も失った、ここが落とし穴だったと考えています。
そういう意味からは金融政策の早期正常化は日本経済の再浮上のきっかけと同時に将来、金融不安や大幅な景気後退があった際、伝統的手法に基づく調整機能の余力を残すことは重要なのです。さもなければ非伝統的な黒田氏が好むマニアックな手法を取らざるを得なくなり日本の金融政策だけが世界の中で特異な状況に陥ることになるのです。
株価の反応です。先週末のつぶやきで「今の日経平均37000円台はチャート的にはいかにも売られすぎで、木曜日の1300円近い暴落は日銀の政策発表分を前取りして吸収したようにも取れますので水曜日後場からは逆に落ち着く公算も出てきたようにも感じます」と申し上げました。ほぼビンゴになりました。チャート的には昨日の日経平均が1200円以上の乱高下で一応下値を確認したので目先はニュースを吸収していくこととなりそうです。
ではどこまで利上げが進むのか。これはもちろん誰もわからないですが、個人的な感覚としては今の景気状態ならあと1年で1.0%まで引き上げるのが妥当かと思います。つまりこれから1年であと3回の利上げです。
「お前はなぜそれほど利上げに肯定的なのか」と思うでしょう。海外で仕事をしていると金利と税金という2つのハードルとの戦いなのです。税金は利益にかかるわけですが、金利は借り入れがある限り必ずついて回るもの。事業ではそれを払ってでも利益をを計上するビジネスモデルこそ勝者なのです。だけど日本には金利すら払えないゾンビ会社が多すぎるのです。なので金利正常化によりしょうもない会社を一掃し、打たれ強く世界に通用する筋肉質な会社を育てる必要があるのです。
最後に為替はどこへ、ですが、金利を上げる前の論理的水準は148円と申し上げました。私は世界通貨との比較を今回の論理基準としていますが、他にも為替の論理的考察手法はいくつかあります。ただ、世界通貨比較手法は米ドルとの対比という点で他通貨からみた日本円の妥当性を探る上では有用だと思っています。今般、日銀が利上げし、アメリカが9月に利下げ方向なので当然148円のバーは円高方面にぶれます。
非常に大雑把な計算をすると148円の算定基準となるドル指数は7月初めが106程度で現在は104程度。9月の利下げを踏まえるとこの先、100程度まで下がるとみています。約6%の下落になるので148円の水準は140円に見直すのが妥当かと思います。とりあえず10月ぐらいまではここが円高基調になった場合のターゲットになるように感じます。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年8月1日の記事より転載させていただきました。