セブン&アイに買収提案をしているアリマンタシォン クシュタール社。セブンは社外取締役などで構成される特別委員会で同提案に対して検討を行っている最中であります。こぼれ聞こえてくるのはセブン側は買収提案拒否するのではないかされています。さて、この展開、どう動くのか、日本の企業統治やグローバルな買収に関しての好例としても注目されます。
セブンは今般、同社が外資規制の対象となる「コア事業」という申請を行いました。申請先は財務省かと思いますが、かなり慎重な審査が行われるとみています。なぜかといえば政府の安直な判断は国際問題につながりかねないからです。
仮に財務省がコア事業であると認めたとしましょう。問題はその根拠です。そもそもコア事業とは軍事転用されたり、極めて重要な技術やノウハウ、特許など海外企業に流出することにより当該企業だけではなく日本の損失につながることを防ぐために外為法で規制するというものです。
似たような法律は諸外国にもありますが、この運用は極めて慎重に行わねばなりません。たとえば軍事転用しやすい技術であればほぼ誰もが納得できる規制です。ところが飲食、小売りはそもそもコア事業リストには入っていません。よって単純に考えればセブンがなぜコア事業なのか、と思われるでしょうが、セブンは180社ほどのグループ会社があり、その中に様々な業種が含まれており、一部コア事業の対象になるものがあるのです。
今回の買収対象ではないと思いますが、セブン銀行はコア事業対象かと思います。財務省のリストを見ると同じ金融でもコアではないものもあればコア指定されているものもあり、この違いは申請内容と個別案件がわからないのでコメントしようがありません。
もしもセブンがコア業種となれば持ち株会社の下にあらゆる業種をぶら下げそのうちの一部にコアになるようなグループ会社をぶら下げることで買収しにくくすることが可能になります。しかしそれを安易に認めると日本が海外企業による買収に対して閉鎖的であり、日本政府がその片棒を担いでいると叩かれるわけで日本が平等で公平な資本主義を掲げているとアピールする点からすれば判断は極めて難しい、こう考えるわけです。
ではお前はどう予想するか、と言われれば公開されている情報だけでモノを申し上げるのは憚れるのですが、コア事業申請は却下される公算があるのではないかとみています。セブンにとって真の意味でのコア事業はごくわずかであり、逆に言えばその事業だけ買収対象から外せばよいということになるかと思います。
ではなぜセブンはそのような申請をしたのか、ですが、これも想像ですが、一つは時間稼ぎ、一つは運よくコア事業になれば買収のハードルが上がるということです。ただ、私から見れば正攻法ではないと思いますが、特別委員会がセブンの気持ちを斟酌しているようにも感じます。
ところでカナダのこのコンビニ大手、クシュタールはセブンの何が欲しいのか、これまた様々な意見が出ています。
私は単に店舗数、特にセブンの「スピードウェイ」買収でアメリカのロードサイド店が増加したこととセブンの企業価値が「バーゲンセール」状態であることに目を付けた、それが主たる理由だと思います。一部には日本式セブンの運営、つまりレジの後ろで様々な調理品を作ったりするノウハウ、例えば最近では焼きたてピザを他のセブンの商品と共に宅配するという新サービスも始めていますが、それが主眼ではないと思います。
あのような日本的(アジア的)サービスをクシュタールの得手としている北米や欧州北部の店舗で展開するのはほぼ不可能だと考えています。理由は簡単。物流ができません。日本は比較的小さい国土にコンビニが密集するようにあります。それなら一日に複数回の配達を含めたきめ細かいサービスが可能です。ところが北米ではそんな器用なことは物流的に不可能だし、それ以上にコンビニのスタッフにそれをやらせるのは至難の業なのです。
日本人は器用なのです。だからこそ温めや調理もできるのです。また国や地域によってルールが違うと思いますが、食品調理を伴う場合、保健所の管理も厳しくなります。そこまでして北米の店舗でセブン流調理できるとは私は逆立ちしても思えないのです。
日本人の多くはセブンが外国企業に買収される可能性について懸念をお持ちかもしれません。では聞きますが、日本製鉄がUSスチールを買収するのはアメリカ人にとってどうなのでしょうか?例えが悪いという意見も出るかもしれませんが、そんなものなのです。では国民のインフラとなった「LINE」は韓国の会社が親会社ですよね。それでも政府を含め情報伝達手段として最も利用価値が高いものです。これ、日本流にいえばコア事業ですよね。
事業の国境の垣根は紆余曲折しながらも下がる、これが流れだと思います。どうしてもそれが嫌なら以前申し上げたように日本企業がホワイトナイトを出せばよい、それだけです。ただ、買収額はせりあがりそうで5兆円では足りなくなりそうです。そうすると企業価値、収益、キャッシュフローなどからそれを出せる支援企業があるのか、です。難しいところだと思います。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年8月30日の記事より転載させていただきました。